風土が生んだ産業
浜松の地形に目をつけて、徳川家康が浜松城を築く
生き物だけでなく、私たち人間も浜松の地形に影響を受けてきました。その最も大きな出来事として、江戸幕府を開いたことで知られる徳川家康の浜松城築城があります。徳川家康は29歳~45歳までの17年間、浜松城を拠点としました。1570年、家康は駿河国(現在の静岡県中部)に攻め込んできた武田信玄の侵攻に備え、浜松城を築きました。
浜松城は、三方原台地の東南端に位置しています。そこは、大河川である天竜川を隔て、遠江国(現在の静岡県西部)を見渡すことが出来る絶好の場所だったと考えられます。その後、浜松城周辺は城下町として栄え、江戸時代に入ってからも関東と関西の中間地点として、人々や物の行き来が盛んに行われました。
地形・気候・人の歴史が作り出す地域特有の産業
浜松城の城下町として栄えた浜松では、浜松の風土にあった産業が生まれ、発達しました。その一つが繊維産業です。繊維の原料となる綿の生育には、温暖で水はけの良い土地が適しています。浜松は、その温暖さに加えて、天竜川の作用でつくられた礫質な扇状地で水はけが良く、綿の生育に適した場所でした。
当時、織物を作る織機は木材で作られていました。天竜川上流(南アルプスの麓)には豊富な木材資源が存在し、切り出した木材を運ぶ際も天竜川が活用されました。また、生産した織物を使い、豊富な水資源と「遠州のからっ風」を活かして、染め物業も盛んになります。
このように地域特有の産業は、地質学的要因、気候的要因、それに付随する生物学的要因、さらに人間の歴史的要因など様々な要因が複雑に絡み合い、生み出されたものです。そして繊維産業を出発点として、「ものづくりのまち」浜松を形成する技術が生まれ、発展してゆきました。
織機の自動化からバイク・自動車産業への発展
1912 年、鈴木道雄【図5】(スズキ株式会社の創業者)は、縦横縞模様を織れる足踏み織機を発明しました。縞模様を織りこむ技術は当時としては画期的で需要が高く、生涯で120以上の発明をする鈴木道雄の発明品第一号でした。その技術力は、補助エンジン付きの自転車、オートバイ、軽四輪自動車などの開発につながってゆきます。 利用者の声を聞き、試行錯誤をして新しいものを作る精神は、現在でも受け継がれ、最新のオートバイや自動車の開発に活かされています【図6】【図7】。
産業の基盤となった機構の技術
織機と自動車の共通点として、力を伝えるという仕組みである機構があります【図8】【図9】。機構とは、機械を構成している最小単位の部品が互いに関連をもって働くことをいいます。機構には、ネジやバネ、歯車、ピストンなど馴染み深いものから、滑車やプランク、カム、プーリーなど聞きなれないものまで様々な種類があります。機構の性質として、①力を他の場所へ伝達する②力の向きを変える③力を伝えるタイミングを調整するなどがあり、これらの性質を活かして、自転車や自動車など日常生活の様々なものに活用されています。
動力を電力へ変える仕組み
動力を力として伝える機構に対して、一旦電力として保存し、動力もしくは他のエネルギーに変換する方法もあります。その起点となるのが発電機です。発電機は、動力(運動エネルギー)を、主に磁石とコイルを使った電磁誘導を用いて電力へ変換します。電磁誘導とは、コイルへ磁石を近づけたり遠ざけたりして磁界が変化したときに電力が生まれる原理のことです【図10】。
電磁誘導を用いない発電方法として振動発電や太陽光発電などがあります。振動発電は、道路や橋などに用いられ、振動により振動面に発生する圧力を圧電効果を備えた物質(圧電素子)を用いて電力に変換する発電方法です。太陽光発電は太陽電池を利用して発電しています。太陽電池へ光が当たると、太陽電池を構成する半導体の電子が動くことによって電気が流れます。太陽光発電や風で発電機(タービン)を稼働させる風力発電は、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料に頼らない自然エネルギーと呼ばれています。自然エネルギーは、それぞれの発電方法によって持続性、生産性、安定性など特性に違いがあります【図11】。
電気自動車や電動アシストへの発展
動力としてエンジンを使わずに、電力で走る自動車や、電力で補助をする自転車があります。
本田宗一郎【図12】が創業者である本田技研工業株式会社は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)の開発、生産をしています【図13】。ガソリン自動車のエンジンにあたるのは、電気自動車では電気モーターです。電気モーターは、電力を動力(回転する力)に変えます。ここで生まれた動力が、タイヤに伝えられ、自動車が動きます。モーターを回す電力は、繰り返し使うことができるバッテリーに蓄えておきます。
川上源一【図14】が創業者であるヤマハ発動機株式会社は、1993年に世界で初めて電動アシスト自転車を発売しました。電動アシスト自転車とは、電力で走行を手助けする自転車で、上り坂や重い荷物を運んでいても楽に漕ぐことができます。通常の自転車の部品に加え、電動モーターやバッテリー、センサーなどが搭載され、バッテリーは充電器で繰り返し充電することが可能です【図15】。