サイエンストーク「生き物から学ぶ恋愛術」

夜の科学館:科学と過ごす甘~い夜❤

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、毎月異なるテーマでプラネタリウムやサイエンスショーなどを実施しています。「大人がワクワクする科学館」を目指した、昼間より一歩踏み込んだ内容のプログラムとなっています。本ブログでは、科学館ならではの切り口で、毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。
2月のテーマ『恋』

2月の夜の科学館は14日、バレンタインデーの開催でした。昭和の時代に「女性が男性にチョコレートを贈り、愛を伝える日」として定着した日本のバレンタインデーは、近年、「チョコレートを通じて愛情や感謝を表す日」へとシフトしつつある(東洋経済ONLINE)ようですが、いわゆる「本命チョコ」を渡した人もいらっしゃると思います。2月のテーマは「恋」。恋をするのは人間だけではありません。今月は、さまざまな界隈の恋愛模様を科学の視点でお届けしました。

特別サイエンストーク「生き物から学ぶ恋愛術」

愛の告白をしたことはありますか?

― 同じ職場の気になるあの人。部署やデスクのフロアは違うけれど、同じ時間に給湯室ですれ違う。その時に「おつかれさまです」の一言を交わすのが、日々の中で一番大切な時間。 ―

そんな気になるあの人に愛の告白とまではいかないまでも、デートに誘うのにも勇気がいりますよね。自分に自信が持てなくて、恋愛に発展できない人も多いと思います。

今回のサイエンストークでは、自分にコンプレックスがある人へ向けて、恋愛の一歩目を踏み出す方法を生き物たちの恋愛術を例に紹介しました。

生き物から学ぶ恋愛術

生き物たちの世界では、メスを求めてオス同士で争う種が多くいます。カブトムシはその中の典型でしょう。

カブトムシ

オスたちは樹液に集まり、メスをめぐって角を用いて相撲をします。押したり、角で相手の身体をすくい上げたりと苛烈な争いを繰り広げます。

勝敗は身体の大きさ(体サイズ)が影響を与えます。体サイズが大きい方が、体重が重く、角も長いです。するとパワー、リーチともに大きくなり、勝率が上がります。その結果、大型のカブトムシの交尾するチャンスが増え、大型になる遺伝子が後世に残りやすくなるはずです。

一方で、当館自然ゾーンの標本を見ると小型なカブトムシも存在します。

カブトムシのオスとメス

もちろん体サイズは遺伝子だけでは説明できず、幼虫期の餌資源も影響を与えると考えられます。しかし、遺伝学的な研究では体サイズが小さくなる遺伝子が後世に残されていることが分かっています。

体サイズが小さなオスは、どのようにメスと交尾しているのでしょうか?

野外でカブトムシの交尾行動を観察した研究では、大型のオスとメスの多くは21時に樹液に現れ、交尾行動をとりました。しかし、メスでは少し早めの20時から現れる個体がいたそうです。

では、小型のオスはというと、どの個体よりも早い19時に樹液に現れ、早めに現れるメスと交尾しました。つまり、争いで勝つことができない小型のオスは、行動時間をずらすことで他のオスと争うことなく子孫を残していたのです。

カブトムシの活動時間

この事例から、我々は下記のことを学ぶことができます。

「弱くても 早く動けば 結婚できる」 by カブトムシ

二十歳になり中学校の同窓会に出席すると、「○○君と○○さん、結婚して子供もいるんだって」という話がありますね。他の町で大学生をしている自分と比較して、「あの二人は大人だな、自分はまだまだ子供だな」と思ったり、思わなかったり…。

サイエンストークでは、他にも「カッコ悪い」「いいプレゼントを選べない」「頭が悪い」「歌が下手」など様々なコンプレックスへの対処法を生き物たちから学びました。内容が気になる方は、科学館へお問い合わせください。そして、恋が成就することを願います。

〇でんけんラボ「モンシロチョウ」

春になると飛び始めるモンシロチョウ、皆さんはオスとメスを見分けられますか?

モンシロチョウのオスとメス

一見、同じように見えますが、メスのほうがわずかに前翅(ぜんし:前部の一対のはね)の黒い部分の幅が広くなっています。
比較すれば見分けられそうですが、1匹だけで飛んでいるモンシロチョウの雌雄を判別するのは難しそうです。では、モンシロチョウはどうして、異性のチョウを見つけられるのでしょうか。
モンシロチョウには、人間には見えない「紫外線」が見えています。
紫外線カメラでモンシロチョウを撮影してみると、下の画像のようになります。

モンシロチョウ紫外線

オスの翅が黒くなり、はっきり見分けられるようになりました。
オスの翅は紫外線を吸収し、メスの翅は反射します。
人間には同じ様に見えますが、チョウには違った見え方をしており、オス、メスが簡単に見分けられるのです。

さて、相手を見つけるのは恋の最初の一歩です。では、相手の気を惹くにはどうしたらよいのでしょうか?モンシロチョウの翅を拡大して、その秘密を探ってみましょう。

電子顕微鏡で、翅の表面についている「鱗粉」を拡大してみました。

モンシロチョウのメスの鱗粉
モンシロチョウのメスの鱗粉

鱗粉は一つ一つが死んだ細胞で、翅の表面にきれいに並んでいます。鱗粉には、水をはじく「撥水(はっすい)」効果によって雨から翅を守るなど、いくつかの働きがあります。
一つの形を見てみると、細長い桜の花びらのような形をしています。

オスの翅についている鱗粉を拡大すると、メスにはない形の鱗粉が混じっています。

モンシロチョウのオスの鱗粉(発香鱗)
モンシロチョウのオスの鱗粉(発香鱗)

発香鱗とよばれる、鱗粉が変化したものです。発香鱗の付け根にはフェロモンを発する器官があり、オスはメスを惹きつけるフェロモンを出しているのです。オスのチョウは異性を見つけると近づいてフェロモンを嗅がせることで、意中の相手を射止める というわけです。

モンシロチョウは見た目だけでなく、香りでも異性を惹きつけているのです。

〇特別投影「神の恋は星の数ほど」

プラネタリウムでは恋にまつわる神話の紹介や、恋とはそもそも何なのか、脳科学の観点からお話しました。

2月の夜8時頃になると南の空、高いところにお誕生日星座のおうし座を見ることができます。多くの星座にはギリシャ神話由来の昔話が伝えられています。そして、このおうし座にはこんなお話が伝えられています。
ある時、神様の中でも一番偉い神様であるゼウスはエウロペという綺麗な女性に一目惚れをしました。そこでゼウスは彼女に気に入られようと、大変美しい白い牛に変身してエウロペに近づきました。そのゼウスが変身した牛がおうし座として描かれているのです。

図1

牛となったゼウスに誘拐されるエウロパ
牛となったゼウスに誘拐されるエウロパ
画像出典:National Gallery of Art「The Abduction of Europa」(1716) , Jean François de Troy

そして、ゼウスの恋のお話というのはこれだけではありません。ゼウスはとても恋多き神でした。どれくらい多かったかというと、下の相関図をご覧ください。

図2

牛となったゼウスに誘拐されるエウロパ

※ギリシャ神話では複数のお話が伝えられていることも多いです。お話によってはゼウスの恋人でない女神や女性もいます。また、ここに記されていない相手がいる場合もあります。

どうでしょう、ちょっと衝撃的な数ではないでしょうか。この中のいくつかは星座のお話になっています。それらのお話によく登場するのが、ヘラという女性です。この女性はゼウスの唯一の正妻で、一部の元妻を除き、他のほとんどの女性は全て浮気相手です。ゼウスは随分と浮気性な神だったようです。

そして、これらのゼウスの恋人たちは星の名前にもなっています。それは木星の周りを回る衛星たちです。ゼウスは宇宙でもたくさんの恋人たちに囲まれているようですね。

このように、ゼウスはたくさんの恋をしてきましたが、「恋」とはそもそも何なのでしょうか。
一緒にいたいという気持ち?生きがい?そんな風に、人によって答えが違うと思います。ただ、脳科学の観点では恋というのは、そもそも感情ではなく、人間の本能的な交配衝動だそうです。恋をしたとき、私たちの脳内では尾状核と腹側被蓋野という部位が活性化します。この部分が活性化し、脳から「自分が気に入った相手とのDNAを残せ!」という命令が出ます。これが交配衝動です。その他にも前頭葉の機能の低下により、判断能力を失ったり、セロトニンという物質の低下によって、何をしていてもその人のことしか考えられないといった強迫観念にとらわれたりします。つまり恋とは、本能的な衝動、特定の相手とのDNAを残すための生存メカニズム、というわけです。

図3

尾状核と腹側被蓋野の場所
尾状核と腹側被蓋野の場所

図4

恋をしたばかりの人の脳をfMRIでスキャン
実際に恋をしたばかりの人の脳をfMRIという機械でスキャンした時の画像。白い部分が活性化を意味している。Aの画像の白い部分が腹側被蓋野、Bの画像の白い部分が尾状核であり、激しい恋をするとこれらの部位が活性化することが分かる。
画像:Helen Fisher, Arthur Aron, Lucy L Brown.(2013).Romantic love:an fMRI study of a neural mechanism for mate choice

そして、ゼウスは浮気性です。
そのせいで、ヘラの嫉妬をかったかわいそうな女性たちもたくさんいます。それにもかかわらず、なぜ浮気してしまうのか。これにも訳があります。

ゼウスは神ですが、人間の脳と同じことが起きていると仮定しましょう。まず、「単なる性欲」、「激しい恋(交配衝動)」、長年連れ添った相手に感じるような「愛着」、この3つはそれぞれ脳の別のメカニズムで起きます。そのため、脳のつくりとしてそもそも「長年連れ添った相手がいながら、他の人と激しい恋に落ちる」ことが可能なのです。これは、より効率よく繁殖できるための仕組み、とも考えられます。

さらに遺伝子的な問題もあります。テストステロンやバソプレシンというホルモンが、遺伝子的に多い人と少ない人がいます。これらのホルモンの量によって浮気に走りやすいかどうかが変わってきます。つまり、先天的な体質のようなもののせいで浮気をしているかもしれないです。

そう考えると、ゼウスの浮気性も仕方がないような気がしてくる…なんてことはないですね。脳科学の観点から見た恋についてご紹介しましたが、共感できないという人も多いのではないでしょうか。筆者も正直その1人です。きっと恋には科学的には説明できないようなこともあるんじゃないのかなと、個人的には思っています。恋に正解も間違いもないと思いますし、それこそ恋の形、というのは星の数ほどあると言っていいでしょう。

科学館職員の語る恋のお話、いかがでしたでしょうか?このほかにも、ミニワークで虹色に光る「レインボーチョコ」作りや、ミュージアムショップで恋に関連するグッズの販売を行いました。
サイエンスショー
でんけんラボ
ミニワーク
ミニワーク看板
開催日:2025年2月14日(金) 毎月第2金曜日

参考資料
宮竹貴久. (2011). 恋するオスが進化する. メディアファクトリー
ヘレン・フィッシャー.(2015).人はなぜ恋に落ちるのか?: 恋と愛情と性欲の脳科学.ソニ-・ミュ-ジックソリュ-ションズ
佐藤俊之.(2020).マンガでわかるギリシャ神話 個性豊かな神々のおもしろエピソードが満載!.誠文堂新光社
杉全美帆子.(2017).イラストで読む ギリシア神話の神々.河出書房新社
国立天文台.”惑星の衛星数・衛星一覧”.国立天文台.2024/2/23.https://www.nao.ac.jp/new-info/satellite.html,(2025/2/13)