夜の科学館:科学をお洒落に着こなそう

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、毎月異なるテーマでプラネタリウムやサイエンスショーなどを実施しています。「大人がワクワクする科学館」を目指した、昼間より一歩踏み込んだ内容のプログラムとなっています。本ブログでは、科学館ならではの切り口で、毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。
11月のテーマ『ファッション』

気温が低くなり、半袖で出歩く方も少なくなる11月。皆さんは何を着て外へ出かけますか?11月の夜の科学館では、さまざまな分野の専門家に「ファッション」をテーマに語っていただきました。

〇特別サイエンストーク「遠州織物~種子から服まで~」

サイエンストークでは「遠州織物」をテーマに浜松科学館と、生地を生産する古橋織布有限会社さん、洋服を作る株式会社HUISさんの三者によるパネルセッションを開催しました。江戸時代の綿花栽培を期に始まった遠州織物。綿花の種子から洋服になるまで、どのような工程を経て私たちの手元に届くのでしょうか。

・種子から糸(浜松科学館)

浜松の温暖で水はけの良い環境を活かして、江戸時代中期から綿花栽培が盛んに行われました。また天竜川上流部より木材資源を供給することで木製の織機が作られて織物産業が興り、遠州織物の歴史がスタートします。

明治時代になると鈴木道雄(スズキ株式会社の創業者)によって縦縞と横縞を同時に織れる足踏み織機や、機械の力で織機を動かす“鈴木式力織機”が発明されました。

鈴木道雄氏と鈴木氏が発明した織機
鈴木道雄氏と鈴木氏が発明した織機

浜松は東京~大阪間の人や物が行き来する中間地点であったことや、遠州織物によって培われた技術力が相まって、現在のものづくりのまち浜松が形成されるきっかけになりました。

そんな浜松の産業を語る上で欠かせない綿花を当館のサイエンス農園で栽培しています。5月に双葉になった「ワタ」は、夏の間にすくすくと成長し、10月には結実し、実が割れると繊維に覆われた種子が現れ、綿花となります。

サイエンス農園で栽培した綿花
サイエンス農園で栽培した綿花

綿花の繊維の向きをそろえて紡ぐことで糸になりますが、これだけでは洋服は作れません。上記のように織機を使って生地を作る必要があるのです。

・糸から生地(古橋織布有限会社 古橋香織理 氏)

縦糸に横糸をとおす織作業について、現代では横糸を空気圧によって渡していく製法が主流になっています。より速く量産が可能なこの製法に対して、古橋織布さんでは昔ながらの「シャトル織機」によって生地を生産しています。

古橋織布有限会社の織機
古橋織布有限会社の織機

シャトルとは横糸を巻いた木製の器具です。縦糸の間をシャトルが通過する必要があるため、互い違いの縦糸を上下により大きく広げる必要があります。そのため生産速度は落ちるものの、様々な質感で仕上げたり、様々な糸の種類を扱ったりすることが可能になり、特に綿の柔らかさを表現するのに適しています。

現場では、1本も間違えることができない糸の配列や織った後のミリ単位以下の生地の調整などを職人さんの手によって行われています。

古橋織布様サイエンスショー
いろいろな種類の生地を触るブースを説明する古橋氏

・生地から洋服(株式会社HUIS 池田祥子 氏・平賀彩子 氏)

株式会社HUISさんでは、古橋織布さんで織られた生地を使ってユニセックス(男女区別ない)なデザインの洋服を作っています。柔らかい遠州織物の良さを活かすポイントは縫製です。

縫製は東北地方の縫製工場で行われます。東北地方は雪国として冬にも安定的に作業ができる縫製が古くから行われ発達した地域です。現在でも、世界的に高い技術力のある縫製工場が集まり、国内外のアパレル業界を支えています。

HUIS様シャツ

「MADE in JAPAN」という言葉がありますが、アパレル業界では最終縫製を日本で行ったものを指します。つまり、最終工程前まで海外で縫製したものを輸入し、日本でブランドタグだけ縫い付けても「MADE in JAPAN」を語ることができるのです。

HUISさんでは、洋服を一から日本で作る純国産にこだわっています。熟練の職人さんの手の感覚によって縫製することで、縫製箇所が硬くならず、遠州織物の生地の柔らかさを活かした洋服づくりを実現しています。

洋服を前に魅力を語る池田氏・平賀氏
洋服を前に魅力を語る池田氏・平賀氏

お店で洋服を目にすると、全体的な雰囲気を見て、値札を見て…という流れになりがちなお買い物。その洋服が作られる工程を知ると、たくさんの職人さんによって丁寧にこだわって作られたことが分かります。そしてそんな洋服を大切に着たいと感じます。

ぜひ「MADE in JAPAN」で純国産の洋服を手にとってみてください。

〇でんけんラボ「遠州織物」

近年、某タレントさんの「白って200色あんねん」という言葉が流行りました。

これは色をカテゴリ分けしたときに、同じ白色でも他の色に近い白色、ツヤ、明度、透過度など様々な要素によって違いが生まれ、ファッションを突き詰める上で、選択・こだわりの余地があることを表現しています。

ここでは同じ白色でも肌ざわりが異なる7種類の生地について、電子顕微鏡で拡大して比較してみましょう。以下に紹介する生地はサイエンストークで登壇いただいた古橋織布有限会社さんが生産され、提供いただいたものを用いました。

夜の科学館ギャラリー
M2階ギャラリーに展示した生地の手ざわりの違いを楽しむ展示

手ざわり:パリパリ
素材:綿
生地の名前:タイプライター+樹脂コーティング

綿の拡大

私たちの生活にとても身近な綿織物。生地を拡大すると、繊維の形はホースのような丸形ではなく、きしめんのように扁平でよじれています。この天然のくせによって繊維同士が絡まりやすく、糸にするのに適しています。

この生地は、特に細い糸を高密度に織るタイプライター生地と呼ばれ、さらに樹脂コーティングによって固められています。

手ざわり:ふわふわ
素材:ウール
生地の名前:ウールガーゼ

ウールの拡大
ウールをさらに拡大

ウールとは何でしょうか?
生地を拡大すると、繊維に細かい縞模様がありました。これは哺乳類の毛の特徴である「キューティクル(毛小皮)」です。ウールの原料の主流はヒツジの毛です。生地の中でも特に保温性が高く、冬物のセーターなどに使われます。

手ざわり:ちくちく
素材:綿+竹
生地の名前:綿竹バフクロス

綿+竹の拡大

綿に似ていますが、複数の繊維が合わさって一本の繊維になっているように見えます。これはバンブーコットンと呼ばれ、綿に竹の繊維を織り交ぜて作られた糸です。竹は綿に比べて栽培する際に少ない水で育ち、農薬も必要ないことから環境に優しい素材として近年注目されています。優しい色合いで、肌触りはサラサラとしています。

【いろいろな糸の種類と織り方】

下に並べた写真は、すべて綿を素材にした生地です。糸の一本一本が細い生地・太い生地、強くよられた糸の生地、あえて隙間を作った生地…。古橋織布さんでは昔ながらのシャトル織機を用いながら、糸の種類や織り方を工夫することで、さまざまな肌触りの生地を生み出しています。

綿の生地4種の拡大_1綿の生地4種の拡大_2

古橋織布さんのシャトル織機によって作られるさまざまな質感、肌触りの生地をぜひ手にとって楽しんでみてください。

プラネタリウムでは、特別投影「星空のもとでファッションショー??」を行いました。時代による衣服の移り変わりや、宇宙飛行士が着用している宇宙服について取り上げました。
ファッションを科学すると、衣服ができるまでの過程や、作り手の工夫を知ることができます。普段身に着けているものがどのようにできているのか、意識してみてはいかがでしょうか。
このほかにも、浜松市博物館所蔵の伊場遺跡から出土した木製よろいについての展示解説や、ミニワークショップでは遠州織物でくるみボタンづくりを行いました。
開催日:2024年11月8日(金) 毎月第2金曜日