第25号の表紙は「サイエンス農園」で綿花を育てるサイエンスチームの山下さんです。
サイエンス農園は浜松科学館の屋外に設けられた、約42㎡ほどの小さな畑です。ここで、4年ほど前から綿花を育てています。地元の方にご協力をいただき、山下さんが中心となって栽培しています。
山下さん「浜松科学館は、展示ストーリーブックでも伝えていますが、全体を通して“ものづくりのまち・浜松”を知ることができる構成になっています。そのはじまりとなったのが綿花栽培だといわれています。実物の綿花を育てることで、浜松科学館らしさをより感じたり、地域についての時間的な振り返りをしてもらえたりできればと思い、栽培を始めました。」
山下さん「過去に、個人的に綿花を栽培していたこともあって、私が農園の主な担当になりました。畑づくりは外部の方の力もお借りして運用しています。」
山下さんは、手作りの紙芝居で綿花と浜松の関わりついても伝えています。
山下さん「MENKA Fair(後述)用に、綿花と浜松のつながりについて解説する紙芝居を作りしました。短い時間で聞いてもらえるように枚数はなるべく少なくして、分かりやすい表現を心がけました。これとは別に、館内で紹介している浜松の偉人たちの功績を伝える紙芝居も制作しています。調べていると、スズキの自動織機の開発史と重なるところもあるなど、歴史のつながりを感じます。」
山下さん「もともと社会科の教師をしていたからなのか、その土地の地形から、産業などとの関係性をイメージすることが多いです。紙芝居の1枚目は浜松の地形図から始まります。」
3年前からは、同じチームの三島さん、大堂さんと「MENKA Fair(めんかフェア)」という催しを立ち上げました。サイエンス農園で採れた綿花を使った工作や、糸紡ぎなどの加工を楽しんでもらえます。さきほどの紙芝居も、期間中不定期で開催します。
三島さん「MENKA Fairは今年度で3回目になります。収穫した綿花を活用できないかなと思って始めました。」
三島さん「最初は単純に綿花で工作や加工を楽しんでもらえればと思っていたんですが、回数を重ねるにつれて、それだけではない価値があるなと感じています。日本の一大産業となった繊維産業を支えている綿花には、浜松のものづくりだけでなく、科学、文化、(浜松の)風土などなど、さまざまな事柄とつながる高いポテンシャルがあると思います。綿花は知れば知るほど奥が深いですね。」
MENKA Fairでは、ワタの植物としての特徴についても解説しています。
大堂さん「綿は、衣服などにも多く使われていますよね。MENKA Fairの期間中は、ワタを電子顕微鏡で拡大した写真や特徴について記載したパネルを掲示して、繊維として重宝される理由についても知っていただけるようにしています。」
“電子顕微鏡でワタを拡大して見てみると、形状は平たく、1本1本に自然な撚りがかかっていることがわかります。これは中心部分にあった細胞液が乾燥してなくなり、空洞になるため自然な撚りができます。また、中心部分が空洞であることにより空気の層を保つことができ、冬は温かく、夏は汗を吸収し涼しく感じられます。このような綿糸の性質により、綿織物は体温調節しやすく着心地が良いため重宝されてきました。(ブログより引用)”
合わせて今年は、中2階のギャラリーで2024年春の特別展「浜松ミクロ散歩」で取材した古橋織布(有)さんから提供いただいた、さまざまな種類の織物も展示しています。
大堂さん「それぞれの布の手触りを、さらさら、ゴワゴワなどの擬音をつけて展示しています。ぜひ手で触って触感の違いを楽しんでください。」
古橋織布さんは、「遠州織物」とよばれる綿織物の製造を中心にされています。遠州織物には細かな定義はなく、遠州地域で作られた綿織物全般を指すようです。やさしい質感と独特の風合いが特徴です。
現在、遠州地域で綿の生産はほとんど行われていませんが、遠州織物は地域に根付いた産業の一つとして多くの人に親しまれています。浜松科学館では、遠州織物を使用したイベントなども行なってきました。
山下さん「MENKA Fairでは、取れた種を持って帰っていただけます。その種を自分の家で育てて、育った様子などを写真で送ってもらえたりしたら嬉しいですね。浜松科学館を通して、地域への興味の輪が広がっていくことを願っています。」