夜の科学館:大人だけのホラーナイト

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、毎月異なるテーマでプラネタリウムやサイエンスショーなどを実施しています。「大人がワクワクする科学館」を目指した、昼間より一歩踏み込んだ内容のプログラムとなっています。本ブログでは、科学館ならではの切り口で、毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。
8月のテーマ『妖怪』

皆さんが「怖い!」と感じるものは何ですか?今月は、あまり科学的ではない存在に思える「妖怪」について、科学の視点で考えるプログラムを実施しました。

〇特別サイエンスショー「恐怖」

遠州地方には古くから伝わる不思議な伝承「遠州七不思議」があります。
その中の1つが「波小僧」の伝説です。

海の底に住む波小僧は、その昔、漁師の網にひっかかり、捕まってしまいました。「助けてくれるのなら天気が変わる時には、海の底で太鼓を叩いて知らせてあげましょう」と願い出て、それを聞いたやさしい漁師は逃がしてあげました。その日から、海が荒れるときには太鼓を叩き、教えてくれるようになりました。

南東から音が聞こえる時は雨、極端に東なら台風、南西なら天気が回復し晴れると、伝えられています。

波小僧の言い伝えは、他にも、行基(奈良時代の僧)が農作業を手伝わせるために作った藁人形が波小僧の正体であるという話など諸説あります。いずれも、波小僧は妖怪として描かれています。

波小僧
浜松市中央区舞阪にある波小僧の像

妖怪とは、“日本で伝承される民間信仰において、人間の理解を超える奇怪で異常な現象、あるいは、それらの現象を起こす不可思議な力を持ち、科学で説明できない存在”とされています。今回は、波小僧を科学の目で見てみましょう。

波小僧の正体は、海から聞こえてくる、遠雷の低いうなりのような音で、「海鳴り」と呼ばれているものだと言われています。台風や低気圧によって生じたうねりや波が、海岸近くでくずれ、分厚く低い雲と海面に反射して、沿岸に音が聞こえると考えられています。

「南東から音が聞こえるときは雨や台風になる」この時の台風の動きを考えてみると、台風が遠州灘の南東にあり、一度西~北西に進んだあと、日本列島に上陸、北東に進路をとります。遠州地方にも台風が接近し、被害が大きくなることもあります。

台風が南東から近づく
※2024年8月の台風10号の動きに似ています。

一方、「南西から音が聞こえるときは、晴れる」と伝えられています。この時の台風の動きは図のような動きになります。

台風が南西から近づく

南西から近づいた台風は海を通り、台風は遠州地方から離れていくので、天気が回復します。
漁師や沿岸にすむ人々にとって気象情報はとても重要です。この地域に住む人々は昔からこのような自然現象を知っていて、身を守る術として「妖怪」に例え、現在まで言い伝えてきたのではないでしょうか。

※実際に海鳴りが聞こえるときには天気が悪く海が荒れていることが多いので、海に近づかないでください

〇特別投影「怪奇!地球外生命体の存在に迫る!?」

「妖怪」というと、皆さんはどんな姿を思い浮かべるでしょうか。

一つ目小僧?
河童?

妖怪を 得体の知れない異形の何か とするならば、宇宙人も妖怪と言える?のかもしれません。

ということで今回のプラネタリウムは、宇宙人や地球外生命体の存在の可能性についてのお話をしました。

3妖怪

みなさんは、宇宙人は存在すると思いますか?

宇宙「人」というとヒト形に限定されてしまう感じがしますが、「地球外生命体」と言い換えるとどうでしょう。動植物だけでなく、プランクトンや大腸菌などの菌類だって生命体ですから、そういうものも含めると存在の可能性がぐんと広がる気がします。

まずは実際に生命体が存在する惑星、私たちがいる「地球」がどんな星か確認してみましょう。

地球は太陽の周りを公転している惑星のひとつです。太陽は自ら光を放つ恒星という種類の星です。恒星の周りには「ハビタブルゾーン」と呼ばれる領域があります。これは、生命に必要不可欠とされる液体の水が存在できる領域です。地球はこのハビタブルゾーン内を公転しています。

ハビタブルゾーン

ただし、ハビタブルゾーン内であれば必ずしも生命が発生するわけではありません。液体の水に加えて、豊富な大気、それを地表にとどめておく適度な重力、恒星から飛んでくる放射線を防ぐための磁場 など、様々な環境が整うことが必要です。地球はそれらが全て整っているからこそ、多種多様な生命が育まれるのです。

では、そんな地球のような惑星が他にもあるのでしょうか。

宇宙には太陽以外にもたくさんの恒星があります。星座を形作る星も全て恒星です。それらの中には、惑星を持つ恒星もたくさんあります。そのような太陽系以外の惑星のことを「太陽系外惑星」や「系外惑星」と呼び、2024年8月時点で5,700個以上もの系外惑星が発見されています。

さらに、ハビタブルゾーン内を公転していることがわかっている系外惑星もあります。その中のひとつ、「k2-18b」と呼ばれる系外惑星の大気中から、水蒸気や硫化ジメチルが発見されたとの報告があります。硫化ジメチルとは、地球においては植物プランクトンが生成する物質のひとつです。だからと言って、k2-18bにもプランクトンがいる!ということではありませんし、生命体がいる証拠は発見されていません。しかし、このような系外惑星もあるということがわかると、地球外生命体の存在の可能性がさらに広がる気がしますね。

では最後に、想像力を働かせてみましょう。

もしも、平均気温50℃、地表にはたくさんの間欠泉が吹き出ているような灼熱の系外惑星があったとしたら、そこにはどんな生物が発生し得るでしょうか。浜松科学館の生き物博士に考察してもらいました。

系外惑星イメージ

まずは好熱菌。蒸気が噴出している場所や温泉の中など高温でも生きることができる微生物で、地球に実在している生き物です。そして、その好熱菌を食べるチュパカブラ(仮)。過酷な環境ですから、食べるだけではなくて好熱菌を体に寄生させて共生している可能性もあります。さらにそれらを餌として狙う、中~大型の生物もいるかもしれません。お湯にじっくり浸かって獲物を待つ温泉星人(仮)です。

灼熱惑星の生態系

念のためですが、これらは当館の生き物博士の考察による想像上の生物で実在しません。このような環境の系外惑星も確認されていませんのでご注意ください。

しかし、生物が生存できる条件が整っていれば、地球とは違う環境でもそれに適応した生態系が築かれる可能性もゼロではないのかもしれません。実際にその可能性を信じて、地球外生命体の痕跡を発見するために大勢の科学者が宇宙に目を向けているのも事実です。
現時点では「地球外生命体は存在する」という証拠はありません。逆に、「地球外生命体は存在しない」という証拠もありません。

得体の知れない異形の何か を想像しながら、星空を眺めてみるのも楽しいかもしれませんよ。

〇でんけんラボ「綿毛」

ケサランパサランという未確認生命体をご存じでしょうか。

白色でフワフワと浮遊し、見ると幸運が訪れるという妖精や妖怪の一種です。

ケサランパサランではありませんが、見た目がそっくりなセイヨウタンポポ(以下、タンポポ)の綿毛を電子顕微鏡で観察してみましょう。

セイヨウタンポポの綿毛

まずは綿毛の中心部分を見てみましょう。

セイヨウタンポポの綿毛_顕微鏡

綿毛の1本1本が放射状に生えているのが分かります。てっぺん部分には綿毛が生えておらず、河童のお皿のようですね。

タンポポの綿毛には種子(正確には痩果)がついていて、綿毛には子孫を遠くへ分散させる役割があります。綿毛は長距離を移動するために、風に加えて上昇気流を利用します。

地面で温められた空気は上昇気流となって綿毛を下から押し上げます。綿毛は上昇気流の一部を巻き込んで、天使の輪のような形の空気の流れを作ります。天使の輪は、綿毛の体制を安定させ、種子をフワフワとより遠くへ運びます。

綿毛_上昇気流

次に種子を見てみましょう。

セイヨウタンポポの種子

種子には大きくて立派なトゲが生えていました。

風に飛ばされて漂う綿毛。遠くへ飛ばされるのは良いものの、地面に着地しても風に流され続けては、いつまでたっても発芽できず本末転倒です。

タンポポの種子のトゲには、地面に着地した際に、自身をその場に固定するための役割があると考えられています。まるで船の錨(いかり)のようですね。
フワフワと浮遊し、着地したら地面から離れない。
一見すると無機質なタンポポの綿毛ですが、細部を観察するとケサランパサランのように意思のある生き物に感じますね。

科学の視点で見た「妖怪」はいかがでしたか?
このほかにも、ミニワークショップ「ずっとみてくる妖怪」や、ミュージアムショップで妖怪に関連するグッズの販売を行いました。

イベント名:夜の科学館
開催日:2024年8月9日(金) 毎月第2金曜日

参考資料
Cummins, C., Seale, M., Macente, A., Certini, D., Mastropaolo, E., Viola, I. M., & Nakayama, N. (2018). A separated vortex ring underlies the flight of the dandelion. Nature, 562(7727), 414–418. https://doi.org/10.1038/s41586-018-0604-2
Wang, L., Liu, G., & Li, S. (2023). Attaching of dandelion seeds: results from morphology/structure and abscission force/angle. Bioinspired, Biomimetic and Nanobiomaterials, 12(2), 52–60. https://doi.org/10.1680/JBIBN.22.00061
・ときめく妖怪図鑑 門賀美央子 山と渓谷社 2016年
・遠州の昔話 なみこぞう 伊達恵美子 文芸社 2016年
・台風8号が西日本に接近 東からの音で危険を知らせる遠州灘の波小僧
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ac96d07d7c69ac24869863a6344c5469cd2abf66