日常で見かける「波」というと、どんなものが思い浮かびますか?海や湖などの水面に生じる波や、その様子を描いた波模様などを想像する方が多いのではないでしょうか。今月は、普段見かける波だけでなく、目には見えない波について伝えるプログラムを実施しました。
〇展示解説「縦波横波」
物理学の世界での「波」は、ある点で起こった振動が周囲へ伝わる現象です。プールなどで水面を叩くと、叩いた場所を中心に波が広がっていく様子を観察することができます。波は、進む方向と振動の方向の関係によって「縦波」と「横波」の2種類に分けられます。力ゾーンにある展示「縦波横波」は2種類の波を発生させる装置です。
バネで繋がったおもりの片側にアームが付いており、スイッチを押すとアームが動いて振動を発生させます。この実験は、バネのおもちゃでも再現できます。
「横波」は、おもりが波の進行方向と垂直に振動します。一方「縦波」は、おもりが波の進行方向と平行に振動します。縦波を観察してみると、バネが伸び縮みし、密度が変化していることが分かります。このことから縦波は、「疎密波」とも呼ばれます。
二人でばねを持ち、片方の端は固定し、もう片方の端を揺らして波を発生させる。
波は、「回折」と「干渉」という性質をもっています。波が進行を妨げる障害物に当たると、障害物を回り込むように進む現象が「回折」です。また、波の山同士がぶつかって大きな山になったり、山と谷がぶつかって打ち消しあったりする現象を「干渉」といいます。
音や光も波の性質をもつことが分かっています。この波は目には見えませんが、実験や身近な現象から感じることができます。
音は、空気の疎密波(縦波)です。壁を隔てても、人の話し声などが聞こえるのは、回折が起こり音の波が壁を回り込んで伝わるからです。
また、光は横波の性質を持っています。透明な液でつくったシャボン玉がカラフルに見えるのは、シャボン膜にあたった光同士が干渉して、強め合った色が見えるからです。光は色によって波のかたちが異なるため、シャボン膜の厚さが変化すると強め合う色が変わり、カラフルに見えるのです。
波は、日常のさまざまなことに関わっています。海やプールに出かけた際は、波を観察してみてはいかがでしょうか。
〇特別サイエンスショー「電磁波」
今や電磁波は、私たちの生活にはなくてはならない存在になっています。スマートフォンや電子レンジ、リモコン、レントゲンなど、電磁波は様々な場面で活用されています。ここでは、そんな目に見えない電磁波について、実験を交えながら解説していきたいと思います。
そもそも「波」とは、山と谷がくり返しながら空間を伝わっていくものを言います。波の基本として、振幅、波長、周波数があります。振幅は波の高さ、波長は山と谷を往復するときの波の長さ(山と山までの距離)、周波数は一秒間に振動する回数を表します。
例えば、音は空気を振動させて伝わっていく波です。振幅は音の大きさ、波長や周波数は音の高さに対応しています。周波数が大きい(波長が短い)と高い音になり、周波数が小さい(波長が長い)と低い音になるといった具合です。
では、電磁波は何が波として伝わっていくのでしょうか?
実は、電磁波は電場と磁場の大きさが変化しながら伝わっていきます。電磁波の字を見てもらうと、「電」と「磁」の文字が入っています。「電」は電気を表し、「磁」は磁気を表します。磁場は、磁石のN極とS極の間に力を生み出します。磁石のまわりにできる磁力線をイメージしてもらえれば大丈夫です。同じく、電場は、静電気のようなプラスやマイナスの電気の間に力を生み出す作用を持っています。電磁波は、電場の変化が磁場の変化を生み、また電場の変化を生み出すといったように、電場と磁場が強くなったり弱くなったりをくり返ながら波として空間を伝わっていくものなのです。
この電磁波を最初に予言したのがマクスウェルという人です。マクスウェルは、1864年、数式的に電場と磁場の変化が波として伝わっていく電磁波の存在を予言しました。そして、1888年、ヘルツがマクスウェルの予言した電磁波(電波)を実験によって確認しました。
本当に磁場の変化が電場を生み出すのか実験をしてみましょう。
ここに強い磁石を用意しました。
この磁石を動かして磁場を変化させれば電場が発生するはずです。しかし、電場は目には見えないので、電気の形で見てみましょう。電場が発生した場所に電気が流れるものを置くと、電気が流れます。
そこで、銅線も用意しました。ぐるぐる巻いてコイル状にし、電気が流れたかどうかがわかるようにLEDをつけてあります。
磁石が大きすぎて動かしづらいので、磁石は置いて、コイルの方を動かしてみます。
LEDが光りました。コイルのまわりの磁場の強さを変化させると電場が生まれ、コイルに電気が流れたことがわかりました。これは、発電の仕組みでもある電磁誘導という現象です。
では、実際に電磁波の出ている場所にコイルをかざしても、電気は流れるのでしょうか。
こちらのパソコンにつなげた機械からは電磁波が出ています。
LED付きのコイルを近づけると…
LEDが光りました。電気が流れたことがわかります。
実はこの仕組み、駅の改札やバスに乗るときなどに利用する非接触ICカードに使われています。浜松だと「ナイスパス」もこれと同じ仕組みです。下の機械から出ている電磁波を受け取り、カードの中のコイルに電気が流れることで、ICチップが起動し、触れることなく情報のやり取りができるというわけです。
今度はもう少し遠くまで通信できる機械を使ってみましょう。小型の無線機(トランシーバー)です。少し離れた場所でも会話することができます。これも電磁波を使って通信を行っています。
再び、LEDを近づけてみましょう。今度はコイルではなく、まっすぐ伸ばした金属線をLEDに取り付けてあります。これがアンテナの役割を果たします。
無線機のスイッチを押すと…
LEDが光りました。無線機からの電磁波をアンテナが受け取り、電気が流れたことがわかります。無線機や携帯電話などは、電磁波を電気に変え、音の波に変換することで相手の声を聞くことができるのです。
また、電磁波にも音の高さと同じように、波長や周波数によって種類があります。電磁波を大きく分けると、周波数の大きい(波長が短い)方からガンマ線、エックス線、紫外線、可視光、赤外線、そして各種電波に分類できます。例えば、X線は物を通り抜けやすいためレントゲンなどに、赤外線は熱を伝えやすいためヒーターなどに、電波は遠距離の通信機器に向いているため携帯電話などに応用されています。私たちはそれぞれの電磁波の性質をうまく利用し、その特性に合わせて様々な場面で活用しているのです。
電磁波の発見からわずか百数十年余りの間に、私たちは様々な電磁波を使いこなせるようになったなんて驚きですね。
〇特別投影「光と色と波、そして宇宙へ」
プラネタリウムでは、宇宙で伝わる波の一つ「電磁波」についてご案内しました。当日の投映の内容を少しだけご紹介します。
「電磁波」とは、字の通りですが、電気と磁気が作る波です。もう少し専門的な言い方をすれば、電場と磁場が作る波といえます。
ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、電磁波とは「光」のことです。
電磁波には、いくつか特徴があります。
1. 真空でも伝わる
宇宙空間には空気がないので、空気が振動する「音の波」は伝わりません。しかし電磁波は伝わります。
2.電磁波は波長(波の長さ)によってさまざまに性質が変わる
図1をご覧ください。この図は光ゾーンの展示にもなっていますから、見たことがある方も多いかもしれません。
波長によって呼び方が変わります。波長の長いものから順に「電波」「赤外線」「可視光」「紫外線」「X線」といった名前がついています。宇宙からは、電波からX線まで、ほとんどすべての波長の電磁波が届きます。
私たちがよく知っている現象の中にも、光の波としての性質を示すものがあります。わかりやすい例は、空の色です。
昼間の空が青く、夕焼けや朝焼けの空が赤く染まる理由は、太陽の光が波の性質を持っているからです。
図2は、昼間の太陽からの光を表したものです。太陽からの光は地球にやってくると、空気にぶつかって、分散してしまいます。そのとき、青い光がよく見えるようになるため、空は青い色に見えます。
時間が経って太陽が西の空へ傾くと、空が赤くなってきます。夕焼けです。図3は夕方の太陽からの光を表したものです。太陽が空の低いところにやってくると、光が私たちの目に届くまでに通り抜ける空気の層が分厚くなります。そうすると、青い光の大半はすでに散ってしまい、赤い光が強く見えるようになります。
このように、昼間の空が青く、夕焼けや朝焼けが赤く見える理由の一つは、光が波の性質を持っているからです。
夕日が沈むと星が見えてきます。次は、星の色に注目してみましょう。
7月上旬、西の空高くに輝くのは黄色い星アークトゥルスです。そこから目線を落とすと見えてくるのが、青白い星スピカ。南の空の低いところには、赤い星アンタレスが燃えるように光っています。東の空では、3つの白い星デネブ・アルタイル・ベガが夏の大三角を作っています。
このように、赤、青、黄色、違った色で光る星もあれば、同じような色で光る星もあります。星の色は、図4のように星の表面の温度によって変わります。温度が低い方が赤っぽい色。反対に温度が高い方が青っぽい色になります。
例えば、アンタレスは比較的温度が低い星です。大体3800℃くらい。温度が低いので赤っぽい色で光ります。それに対して、スピカはもっと熱いです。だいたい20000℃くらい。温度が高い星は青っぽい色で光ります。
ここで一つ、気になることがあります。 緑色の星がないということです。赤・青・黄色の星があるのですから、緑の星があってもよさそうな気がしませんか。星の表面の温度と光の色は、少し複雑な対応関係にあります。それぞれの温度の星がどんな光を出しているのかグラフに表すと図5のようになります。
横の軸が光の波長です。右に行くほど波長が長い、赤い光。左に行くほど波長が短い、青い光です。そして、縦の軸がそれぞれの波長の光の強さを示します。「プランク分布」といいます。この図では可視光線の周りの波長だけ切り抜いています。
例えば、20000℃の線(水色)をみると、右肩下がりになっています。波長が短い光、紫や青い光を強く出していることを示します。それに比べて、反対の赤系の光も出してはいますが、あまり強くはないようです。そうすると、青系の光が強く見えて、青白い光の星になります。
一方で温度が低い星3800℃の線(オレンジ色)を見てみると、右肩上がりになっています。波長の長い赤い光が、波長の短い青い光に比べて強く出していることを示します。その結果、赤い星になるわけです。
では、緑色の星がないのはなぜでしょうか。図5のグラフの線はどれも、右肩上がりか、横ばいか、右肩下がりになっていますね。波長500~550nm(ナノメートル)あたりの緑の光だけを強く出して、青や赤の光はあまり出さない光り方ができないのです。緑の光を強く出そうとすると、青や赤の光も一緒に強く出てしまいます。そうすると、光は合わさって白い色・白い星になります。
このような理由で、緑の星というのは、ありません。
さて、少し街から離れてみましょう。街から離れると満天の星、そして天の川が見られます。
天の川は、天の川銀河を横から見た姿、内側から見た姿です。
図6をご覧ください。
天の川の中に、ぼんやりと黒くなっている場所があります。これは冷たいガスやチリが向こう側の星の光をさえぎってしまい、黒くなっているもので「暗黒星雲」と呼ばれます。宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』では、「石炭袋」と表現されています。
この黒いもやの向こうにはどんな世界が広がっているのでしょう。赤外線のアンテナを向けて観測すると、図7のような姿を見ることができます。
これは波長1.25μm(マイクロメートル または ミクロン)、1.6μm、2.17μmの3つの波長で観測し、それぞれを青、緑、赤に対応させて画像化したものです。アメリカとチリの天文台によるプロジェクトで観測されました。
赤外線はガスやチリを透過して光を見られるので、暗黒星雲で見えていなかった向こう側の様子を調べることができます。
宇宙には、天の川銀河のほかにもたくさんの銀河があります。中には、変わった姿を見せてくれる銀河もあります。例えば、「はくちょう座A」という銀河は、「電波銀河」と呼ばれる、電波を強く出している銀河です。
図8は、「はくちょう座A」をX線、電波、可視光線のそれぞれで観測した画像を重ね合わせたものです。
青い光は、X線で見た「はくちょう座A」の姿です。銀河全体が高温のガスに淡く包み込まれていることがわかります。そして、中心部分と両端に強く光っているところがあります。高温のガスが密集していることを示します。
赤い光は、電波で見た「はくちょう座A」の姿です。両端が明るく輝いていて、その周りも淡く光っています。はくちょう座Aの中心にはブラックホールがあることが知られています。そのブラックホールはジェットという構造を持っています。ガスがものすごい勢いで噴き出しているのです。そのジェットで吹き出されたガスが電波を出しているためこのように見えます。
黄色い光は、可視光線で見た「はくちょう座A」です。中央で光っているのが銀河の姿で、周りや後ろにあるキラキラとした光は、ほかの銀河や星の姿です。
このように、X線、電波、可視光線で見た姿や得られたデータを重ね合わせると、銀河そのものの姿、ブラックホールが起こす現象を多角的に調べることができます。
宇宙からやってくる波は、メッセンジャーに例えられることがあります。星や銀河、ブラックホールが私たち人類に、電磁波という「手紙」を使って、「宇宙とはこんな世界だよ」と伝えてくれているのです。
〇でんけんラボ「ちりめんモンスター」
食卓に上がる「ちりめんじゃこ」。遠州地域では特に釜揚げシラスとして親しまれています。釜揚げシラスを白いご飯の上に振りかけると、稀に赤色のタコや、小さなエビなどが入っていることがあります。これらシラス以外の小さな生き物を「ちりめんモンスター」と呼びます。
今回は、舞坂漁港で水揚げされたシラスや、ちりめんモンスターたちを電子顕微鏡で観察してみましょう。
まずはシラスから見てみましょう。
大きな目と口を持っています。上顎が発達して、まるで口が上下の片方しかないように見えます。これが名前の由来となり「カタクチイワシ」という種名がつけられました。シラスはイワシの仲間の稚魚を指します。シラスの中には、カタクチイワシの他にウルメイワシやマイワシなども含まれます。
それでは、ちりめんモンスターを観察しましょう。
まずは1匹目。
大きな口を開けてモンスターらしい姿です。これは何という魚でしょうか?
ヒントは身体の中央を横断する太い線(下の写真、白色矢印)。
正解は「マアジ」でした。
マアジはアジ科アジ亜科に属し、アジ亜科の魚にはゼイゴと呼ばれる鱗が強調した太い線があるのが特徴です。そして、普通は頭から尻尾にかけて直線状に走るゼイゴですが、マアジの場合は下の写真(白色矢印)のように途中で強く湾曲します。
アジの干物を食べる機会がありましたら、ぜひ皮目のゼイゴを観察してみてください。
2匹目。
何の魚でしょうか?ヒントは味噌煮にする魚です。
正解はサバの仲間。上向きにしゃくれた顔が特徴です。マアジを含む魚類全般に言えることですが、稚魚の時は成魚に比べて身体の中で頭の比率が大きく、頭でっかちです。
3匹目。
今まで以上にモンスターに見えるこの生き物は何でしょうか?
正解はカニの仲間。卵から生まれたばかりのエビ・カニの仲間はゾエア幼生と呼ばれ、大きなトゲを持ち、成体とは全く異なる姿をしています。胸部の付属肢を使って水中をフワフワと移動し、海面近くの小さなプランクトンを食べます。
一方で、魚類から見るとゾエア幼生は大きめのプランクトン。絶好の食料です。ゾエア幼生たちは素早く逃避することができませんので、せめてもの抵抗として大きなトゲを持つと考えられています。
この他にもソイの仲間、ボラの仲間、カマスの仲間、タチウオの仲間、ウミノミの仲間など様々な生き物を観察しました。スプーン一杯分のちりめんモンスターから、遠州灘の生物多様性を感じたひと時でした。
開催日:2024年7月12日(金) 毎月第2金曜日
参考資料
JAXA宇宙教育センター(2015)「空はなぜ青いの?夕やけはなぜ赤いの?」 , JAXA 宇宙教育教材 https://edu.jaxa.jp/materialDB/contents/detail/#/id=79188
名古屋市科学館(2017)「一等星データノート2011」 , http://www.ncsm.city.nagoya.jp/study/astro/data/major_stars_data.html
江越航(2022)「【天文の話題】緑色の星」,大阪市立科学館 月刊うちゅう 2022年5月号(第458号) https://www.sci-museum.jp/activities/publication/universe/202205/
宮沢賢治(1934)「銀河鉄道の夜」 , 宮澤賢治全集 第三卷
日本天文学会(2020)「天文学辞典 暗黒星雲」 , https://astro-dic.jp/dark-nebula/
日本天文学会(2022)「天文学辞典 2MASS」 , https://astro-dic.jp/two-micron-all-sky-survey/
日本天文学会(2018)「天文学辞典 マルチメッセンジャー天文学」 , https://astro-dic.jp/multi-messenger-astronomy/
西田 百代. (2020). 海のミクロ生物図鑑: チリメンモンスターの中に広がる世界. 仮説社.