天文台からのコメント:「入梅」は、「雑節」の一つで、日本独自の季節点です。日付が決まっています。一方「梅雨入り」は、実際に梅雨に入ったことを表す気象用語で、気候によって変化するため日付は決まっていません。
雨が多い時期になってきましたね。じめじめとしてあまり好きではないと言っていたら、「それは人間の都合。植物にとっては大切な雨なんだよ。」と先輩に諭されたことを思い出します。梅雨の晴れ間をねらって星空を楽しみましょう。
(文:浜松市天文台)
浜松市天文台のWebサイト
6月の星空案内 春の星空と星座
2024年6月 上旬:21時ごろ 中旬:20時ごろ 下旬:19時ごろ
6月になると暖かい日が増えてきます。夏がやってきますね。
そして21日は夏至です。1年で一番太陽が高く昇り、太陽が出ている昼の時間が長くなります。
太陽がようやく沈んだ後には、春から夏へ移り変わる星空が見えてきます。春の大三角が南から少し西へ傾き、東の空には夏の大三角も見えるようになります。
春の大三角を見つけると、おとめ座、うしかい座、しし座を見つけたことになります。さらに夏の大三角を見つけると、こと座、わし座、はくちょう座を見つけたことになります。二つの三角でまとめて6つの星座を見つけられます。ぜひ2つの三角探しに挑戦してみましょう。
夏の大三角のうち2つの星は七夕の星としても有名です。こと座のベガは織姫さま、わし座のアルタイルは彦星さまです。
明け方、東から南東の空には2つの惑星を見ることができます。南東に見えるのは土星、東の低い空に見えるのは火星です。
梅雨に入ると雨の日、くもりの日も多くなりますが、もし晴れた時には星空を眺めてみてはいかがでしょうか。
うしかい座とりょうけん座
うしかい座はオレンジ色に輝く1等星のアルクトゥルスが有名で、この星は春の大曲線を構成する1つです。この人物が誰であるかは諸説あるようです。犬を連れて熊を追う姿から、熊の番人や猟師として見られていました。α星についた「アルクトゥルス」は、「熊の番人」という意味です。ここでは、この牛飼いを天を担ぐアトラスとしたお話を紹介します。
ギリシャ神話の英雄、ヘルクレスは、西の果てのヘスペリデスの園に金のリンゴを取りに出かけることになりました。リンゴを取るためには、リンゴの木を守るヘスペリデスの三姉妹の父親アトラスに頼むのがよいと教えられ、アトラスに会いに出かけました。アトラスは重い天をかつぐ仕事をずっと続けていました。その仕事にもうあきあきし、うんざりしているところでした。リンゴを持ってきてくれるなら仕事を代わってあげるとヘルクレスに言われたアトラスは、喜んで娘たちのところからリンゴを持ってきました。天を担いでいたヘルクレスに「肩当てがないと痛いから肩当てを取ってくる間代ってくれないか」と言われたアトラスは、代わってあげます。こうしてヘルクレスにだまされたアトラスは、再び重い天を担ぐはめになってしまったのです。人のいいアトラスです。
りょうけん座の歴史は浅く、17世紀になってポーランドの天文学者ヘベリウスが設定しました。もともと、おおぐま座の一部だったものを二匹の猟犬の星座として独立させました。
一緒にいるのに、それぞれ別々の歴史を歩んできた2つの星座です。
<参考> ・「全天星座百科」藤井旭著:河出書房新社
太陽が描くアート「アナレンマ」
今年の夏至は6月21日です。1年で太陽が最も高く昇り、昼が長い日です。しかし日本は梅雨のため、夏至であることを実感するのは難しいかもしれません。太陽の観察をしていると面白いことがわかります。定期的に、同じ場所・同じ時刻で太陽の位置を観察していくと、その軌跡は1 年をかけて、8の字を描きます。このように、ある決まった時刻の太陽の高さを軌跡として描いたものを「アナレンマ」といいます。下図は浜松市のアナレンマをシミュレーションしたものです。毎月5日、21日の正午の太陽の位置を同一の景色の中に重ね合わせると、このようになります。8の字になる理由は、地球の自転軸(地軸)が傾いていること、公転軌道がわずかに楕円であるためです。地軸の傾きによって、太陽高度が高くなったり低くなったりします。加えて公転軌道が楕円であることで、太陽の位置は同時刻で東西方向にブレれてしまいます(太陽は必ずしも正午に南中するとは限らないとも言えます)。地軸がまっすぐで、地球の軌道も真円だとしたら、こんな神秘的な軌跡は見られなかったわけです。
今年、何か新しいことを始めたいと思われたら、夏至を起点にアナレンマの制作はいかがでしょうか? 1年をかけて太陽が空に描き出す壮大なアートが完成しますよ。
※定点、同時刻で日付を変えて写真を撮影し、画像処理ソフトで「比較明合成」という処理を行うと下のような画像ができます。