夜の科学館:科学技術と共に生きる

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、プラネタリウムやサイエンスショーなど、昼間の科学館とは趣の違う大人の方向けのプログラムを実施しています。今年度の夜の科学館では「大人がワクワクする科学館」を目指して、毎月異なるテーマを設定し、さまざまなコンテンツをご用意しました。本ブログでは、科学館ならではの切り口で毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。

2月のテーマ『テクノロジー』
科学技術の発展により、私達の生活はとても豊かになりました。今月は、それぞれのプログラムを通じて科学の進歩や日常の中の科学技術についてご紹介いたしました。

〇サイエンスショー「浜松科学館のテクノロジー」

2019年にリニューアルオープンした浜松科学館は、展示のほとんどが新しくなりました。CGを用いたシュミレーションやARやVRの技術を用いたものも取り入れられており、より深く楽しく科学を学べるように、展示物も進化しています。
今回のサイエンスショーでは、特に「見る」という視点から、「浜松科学館のテクノロジー」についてご紹介しました。
浜松科学館には、30,000倍まで拡大できる走査型電子顕微鏡があります。
顕微鏡の始まりは1590年、オランダのメガネ職人であるハンス・ヤンセンと息子のツァハリアスの2人によって考案されたと言われています。2枚のレンズを組み合わせた複式タイプのものでした。その倍率は3倍程度だったそうです。
そこから大きく進化した電子顕微鏡は、直接試料を見るのではなく、電子線を試料に当て、跳ね返った2次電子を使って観察を行います。浜松科学館にも「でんけんラボ」があり、色々なものを観察することができます。浜松科学館の電子顕微鏡は30,000倍まで見ることができます。最初の顕微鏡が誕生してから400年以上、顕微鏡は大きく進化しています。

世界で初めてのブラウン管テレビは、浜松で生まれました。
浜松高等工業学校(現:静岡大学工学部)の高柳健次郎博士は、アメリカでラジオ放送が開始されたことを受け、「音が送れるのであれば、電波によって映像も送れるようになるのではないか」と考え、テレビの研究に邁進します。
1926年に「イ」の文字を電送し、ブラウン管に映し出すことに成功しました。

そんなテレビも1960年にはカラーテレビに進化、そして今ではブラウン管から液晶テレビに進化しています。さらにはハイビジョンテレビへとさらに進化が続いています。浜松科学館ではそのイ号テレビの教育モデルを展示しています。ぜひ、一番最初のテレビに触れ、今のテレビとの違いや共通点などを調べて見てください。

顕微鏡もテレビもどちらも「見る」ものですが、科学館に「見る」面白い展示があります。
朝や夕方、科学館の外壁を見上げると人の顔やイラストなどが見えます。皆さん、ご存知でしたか。

これはイリュージョンパネルと呼ばれています。どうなっているのか、拡大して見てみましょう。

よく見ると、突起物の向きが違うことが分かります。これが絵となって見える仕組みです。

太陽(光)の当たる角度が変わると、反射や影の伸び方が変わることを利用したもので、実際に色がついているわけではありません。テクノロジーと呼ぶには少し大げさかもしれませんが、外壁でも科学を楽しんでもらえるよう工夫されています。
ちなみに、内容はレオナルド・ダ・ヴィンチ、ガリレオ・ガリレイ、アインシュタインの3人の偉大な科学者のイラストと1974年、プエルトリコのアレシボ天文台からヘルクレス座の球状星団M13に向けて送られた電波信号をもとにしたメッセージ(DNA、人類の身長、地球の人口、太陽系など)が描かれています。
場所や時間、季節によって見えたり見えなくなったりします。ご来館の際にはぜひ、ご自身で確認してみてください。

〇500円硬貨とICチップ
私たちのお財布にある貨幣や紙幣。
とても身近な存在ではありますが、偽造を防止するために微細な模様が施された技術(テクノロジー)が詰まっています。
今回は、2011年に発行された500円硬貨を電子顕微鏡で観察してみましょう。

さっそくですが問題です。
2011年11月以降に発行された500円硬貨には、「5」が「5つ」印字されています。
500円硬貨をお持ちの方は、ぜひ手にとって探してみてください。

では、答え合わせをしていきましょう。
まずは簡単なところから、裏面にある大きく印字された「5」。

次は表面。
左右の縁に小さな「5」が1つずつあります。
拡大すると、「500YEN」と書かれていますね。
縦0.4 mmほどの小さな「5」です。

次は再び裏面に戻りましょう。
最初に見た大きく印字された「500」の「0」に注目してみましょう。
500円硬貨を持って手前に傾けると、「0」の中に「JAPAN」が、逆に奥に傾けると「500YEN」が浮かび上がります。
これで「5」が「5つ」見つかりました。

「0」の中の「5」は、どのような形に加工され浮かび上がっているのでしょうか?
拡大すると、細かい横線が何本も走り、さらによく観察すると、ところどころ上向きに凸、下向きに凸な部分がありました。

試しに上向きに凸な部分を繋げると「J」。

下向きに凸な部分を繋げると「5」になりました。

凸な部分と他の部分で光の反射する位置をわずかに変えることで、見る方向によって「J」や「5」が浮かび上がるように工夫しているのですね。

お財布の中のミクロなテクノロジー。
頑張れば虫メガネでも見ることができますので、ぜひ観察してみてください。

ちなみに、「0」の上の方の左右に、「N」と「P」が印字されているのに気がつきましたでしょうか?
※下の画像白色丸部分

「N」「P」ということは、他の場所にはあのアルファベットたちが隠されているかも…
ぜひ探してみてください!

〇見えない宇宙に挑む

日本と海外のプラネタリウムの違いは、海外ではあまり星座神話が語られないことではないでしょうか。
海外では、主に最新の天文学の話を事前に録音されたナレーションを使って解説した映像番組が多いと思います。
今回の夜の科学館では、海外で制作された映像番組をご覧いただきました。

かなり高度な内容のため、投映後のアンケートで「プラネタリウムはきれいだったが、内容が難しすぎた。」というご意見もいただきました。
そこで、簡単に今回投映したプラネタリウム番組「見えない宇宙に挑む」の内容についてご紹介します。
この作品はヨーロッパ南天天文台という研究機関が制作した番組です。
ガリレオが自作した天体望遠鏡を、はじめて宇宙に向けてから現代まで人類がどのようにして宇宙を調べてきたのか、その結果どのようなことがわかったのかを紹介する番組です。
宇宙からやってきた光を分析することで、様々なことがわかりますが、光とは目に見える光(可視光)だけではなく、赤外線や電波といった目には見えない光もあり、それらを含めて電磁波と呼んでいます。

そして、電磁波の周波数によってわかることが違います。例えば天の川を様々な周波数で調べると、図のようになります。天の川の印象が変わりますね。
天文学の発展は、天体望遠鏡の性能の向上によるところが大きく、口径(光を集める部分)の大きさが大きいほど、性能が良くなります。現在、完成すれば世界最大となる直径39mの巨大望遠鏡ELT(Extremely Large Telescope)が南米のチリに建設中です。

一方で、地球には大気があるため、天体観測には向いていません。そこで、宇宙に望遠鏡を打ち上げて観測しています。現在は、2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などが活躍しています。

また、地下にも宇宙を観測する施設があります。日本の岐阜県にあるスーパーカミオカンデです。ここでは、宇宙からやってくるニュートリノという素粒子を観測しています。
ニュートリノを観測するために使用されているのが、浜松市に本社がある浜松ホトニクスが開発した光電子増倍管です。実物が浜松科学館に展示してありますので、ぜひご覧ください。

このように可視光だけではなく、宇宙からやってくる様々な情報を工夫して集めて、天文学者たちは宇宙を調べているのです。
「天文」という言葉は「天空に起こる様々な現象」という意味があります。ただ、個人的には「天文」を「天からの文(手紙)」と解釈することで「宇宙からやってくる情報」と変換でき、それを調べている人が「天文学者」だと考えれば、わかりやすいと考えています。
見えない宇宙に挑んでいる天文学者たちが解き明かす、新しい宇宙の姿が楽しみですね。

浜松科学館では、さまざまな科学や、科学技術について展示しています。展示物そのものにもたくさんの科学技術が詰まっています。私達の生活を支えるテクノロジーを、感じて頂けたでしょうか。このほかにも、科学館で栽培した綿花を使用してつるし雛をつくるミニワークショップや、宇宙関連グッズの販売を行いました。

  • ミニワークショップ「綿花でつるし雛をつくろう」
  • でんけんラボ 「500円硬貨とマイクロチップ」
  • 浜松の偉人「髙柳健次郎」
  • サイエンスショー「浜松科学館のテクノロジー」

次回の夜の科学館は、2024年3月8日(金)テーマ『暮らし:わたしたちの生活を考える』

ご来館、お待ちしております。

イベント名:夜の科学館
開催日:2023年2月9日(金) 毎月第2金曜日

参考資料
JMMA 日本顕微鏡工業会ホームページ
一般財団法人 家電製品協会 省エネ家電 de スマートライフ