11月のテーマ『体』
皆さんは、自分の身体のことをどのくらい知っていますか?身長や体重、血圧など健康診断で調べる項目の他にも、身体はさまざまな要素でできています。今月は、科学的な視点で身体について知ることができるプログラムを実施しました。
〇サイエンストーク「身体を知ろう」
映画「となりのトトロ」に登場するトトロたち。
下のイラストの中で、トトロはどの生き物に似ていると思いますか?
さまざまな意見があると思いますが、筆者は生物学的な視点から「ヒト」に近いと推させていただきます。
一つ目の根拠として挙げるのは、「直立二足歩行」です。
映画の序盤に中トトロと小トトロが直立二足で見事な走りを披露します。
このシーンでは、メイちゃんは四足歩行をしているように見えますね。
直立二足歩行はヒトだけができる特別な歩行です。
ティラノサウルスのような恐竜や、カンガルーなども体現できていそうですが、これらは二足歩行です。二足歩行は、体幹が地面に対して斜めな一方で、直立二足歩行では体幹の角度は地面に対して垂直です。
二つ目の根拠は、「母指対立運動」です。
母指対立運動とは、親指とその他の指が向かい合って別々に動くことです。私たちが物をつかむことができるのは、この運動のおかげなのです。大トトロも母指対立運動によってサツキちゃんを優しくつかんでいますね。
現代の私たちにもつながるヒト特有の直立二足歩行と母指対立運動。
生命の進化の中で、これらの性質が生まれたのはごく最近の出来事です。
地球に生命が誕生したのが約40億年前。
私たちの祖先である、背骨をもつ動物の祖先が生まれたのが約5億年前。
哺乳類が生まれたのが約2億年。
直立二足歩行をする猿人が現れたのが700万年前。
そして、完全な直立二足歩行をするホモ・エレクトゥスが現れたのが200万年前です。
200万年というのは、生命史の中ではごく最近であることが分かります。
直立二足歩行や母指対立運動は、私たちへ多くのメリットを与えました。
それまで木の葉や果実などを食べていたであろう猿人たちは、直立二足歩行や母指対立運動によって、石を投げて動物を捕えることが可能になりました。また石器のような道具を作り、より高度な狩りを行うようになりました。栄養価の高い肉は脳の発達に寄与し、器用な手先と連動して、さまざまな道具や技術を生み出していきます。
しかし、直立二足歩行や母指対立運動は、私たちにデメリットも与えます。
これまで水平方向に慣らされていた体重は、直立することで肩や腰へのしかかり、私たちを肩こりや腰痛で苦しめます。
また高度に便利になった現代では、過食や運動不足によって肥満や筋肉の減少を引き起こします。これらは腰痛や生活習慣病のリスクを高めます。
サイエンストークの後半では、進化のデメリットの解決方法の一つとして「筋トレ」をお勧めしました。筋トレによって、姿勢の矯正や、肥満の解消が期待でき、腰痛の改善に繋がることがあります。
筆者もこのサイエンストークを機会として、今年の2月から筋トレをはじめました。あくまで筆者のケースではありますが、体重は6kg減少し、持病だった腰痛も落ち着いています。
当日は、主な部位の筋肉について、家でもすぐに始められる筋トレを動画で紹介しました。皆さんもヒトの身体の進化を意識しつつ、自身の身体と向き合ってみてください。
〇歯の断面を見てみよう
そんな調子で虫歯を放置していたら、神経を抜いたり、抜歯したりと苦い経験をしたことがある人はいませんか?
歯の構造を観察することで、歯磨きや歯医者さんへの通院の大切さを実感してみましょう。
今回観察するのは、過去に抜歯した筆者の過剰歯(通常よりも余分に生えた歯)です。
電子顕微鏡で見てみると…
1番外側の層は「エナメル質」。
リン酸カルシウムの一種、ハイドロキシアパタイトと呼ばれる物質が結晶構造を作り、とても硬いのが特徴です。骨にも含まれますが、歯のエナメル質の含有率は、90%以上と体内でナンバーワン。これによって食べ物を咀嚼することができるのです。
ハイドロキシアパタイトは6角柱の結晶を作る性質があります。
エナメル質の表面を観察すると、確かに正6角形が並び、美しい幾何学模様が描かれていました。
非常に硬いエナメル質も、虫歯の原因となる細菌によって、周囲が酸性化し、溶かされてしまいます。このような初期の虫歯には、丁寧な歯磨きの指導や、一部を削ったり、場合によっては詰め物をしたりする治療が必要です。
エナメル質の内側にある層は象牙質。
この象牙質の70%は、ハイドロキシアパタイトで、残りはコラーゲンで形成されています。硬度が高いエナメル質もトンカチでたたけば割れてしまいます。ある程度柔らかい象牙質には、強い衝撃を吸収するクッションの役割があります。
象牙質には縦方向に「象牙細管」と呼ばれる管が通っています。
管は液体で満たされており、象牙質の形成・維持や、神経が通ることで噛んでいることの感覚が得られます。
神経があるということで、細菌が象牙質まで侵すと、冷たいものを飲んだ時に過敏に感じたり、痛みを感じたりするようになります。そうなると、一部を削り、詰め物をする治療が必要です。
一番深くにある層が歯髄です。
スポンジ状の組織が見えますね。
ここには神経の束や、象牙質へ栄養素を送るための毛細血管があります。
細菌が歯髄まで届いてしまったらお終いです。神経が集中した場所ですので、常に強い痛みを感じます。治療としては、歯髄を全て除去して人工的な歯を表面に被せる、場合によっては抜歯する必要があります。
歯髄を除去するということは、象牙質への栄養補給も無くなり、その歯は死んだ状態になりなって、脆くなります。神経がある歯で食事を楽しむためにも、丁寧な歯磨きや歯医者への定期的な検診を心掛けましょう。
〇熟睡プラ寝タリウム
『熟睡プラ寝たリウム』は、もともと兵庫県明石市の明石市立天文科学館が2011年の「勤労感謝の日」に行った特別プログラムです。それが好評だったため、翌年日本プラネタリウム協議会にてこの取り組みを紹介、同館に日本プラ寝たリウム学会を設立し、全国の有志施設が行うようになりました。年々開催施設が増えており、今年は66施設で行われます(2023年10月29日現在)。当館では初めて開催しました。
星空の下で眠ってもらうというコンセプトは共通ですが、内容は各施設で異なります。たとえば、アロマを発生させたり、完全に寝転がって見られる席を設けたり、ナレーションは入れず、その日の星空をゆっくりと時間を進めて投映したり、アーティストによる生演奏をしたり、極めて単調な解説をしたり…と、さまざまです。
当館では、当日の夜見られる星空をスタッフが生解説するスタイルで行いました。
普段の生解説に比べて、声は張らずゆったりと、ボリュームを落として、ポインターも使わずに、眠りを誘うBGMをかけて臨みました。
投映開始前の演出として、寝室の様子をドーム前方に表示し、暖色のオレンジ色の周囲灯を灯して、入場してすぐにでも眠っていただける体制でお迎えしました。
実際に、座った瞬間眠ってしまったという方もいらっしゃったようです。
さて、投映が始まりました。
当日の浜松の街並みを見ながら日の入りをむかえ、夜景の中で夏の大三角、土星を見つけました。そして「街の明りも、うとうとしているそこのあなたも― おやすみなさい。」のセリフとともに暗転。辺りは満天の星に包まれました。真っ暗な中で観覧者の顔は見えませんが、かすかな寝息が聞こえ、より一層「プラ寝たリウム」の雰囲気が高まってきたように感じました。
このあと、秋の星座や神話を紹介し、焚火の映像を見ながら心が安らぐ要素や火についての話題、午前0時の星空で冬の星座をお話しました。
気が付いてみると、秋の長い夜がもう明けようとしています。再び浜松の街並みを見ながら翌日の朝をむかえました。
場内が明るくなると、大きく伸びをする方、夢の世界から戻りかけている方、放心状態の方もいらっしゃり、普段よりゆったりと時が流れていました。
毎月実施している「夜の科学館」アンケートでは
「熟睡プラ寝たリウムの存在を初めて知った」
「こういうプログラムが欲しかった」
「寝たい気持ちと見たい気持ちが葛藤した結果、うとうとでした」
「眠れなくて残念だった」
「気持ちよく眠れた」
など、さまざまなお声をいただきました。
また、本投映ではみなさまがどのような状態だったかを知るため、終了後、「プラ寝た度」をお答えいただき(自己申告)、それに対応したステッカーをプレゼントしました。
プラ寝た度は、「完徹(完全徹夜:一睡もしていない)」「うとうと」「熟睡」の三段階に分けました。
結果は…
「完徹」が41名(27%)
「うとうと」が69名(46%)
「熟睡」が40名(27%) (152名中150名が回答) でした!
全体の7割の方が、「うとうと」または「熟睡」状態だったということで、「プラ寝た」な方が多かったと捉えたいと思います。
ご来館、お待ちしております。
開催日:2023年11月10日(金) 毎月第2金曜日
参考資料:
・遠藤秀紀. 人体失敗の進化史. (光文社, 2006).
・ヘンリー・ジー. 超圧縮 地球生物全史. (ダイヤモンド社, 2022).
・日本プラ寝たリウム学会機関誌「熟睡プラ寝たリウム」第1号