科学館の入り口

皆さん、浜松科学館に来たことはありますか?

「あります!」と答えてくださった方、ありがとうございます。
科学館が大好きで、繰り返し利用してくださる方だけでなく、イベントやワークショップ、プラネタリウムを楽しむ方や、観光で訪れる方、ボランティアとして活動する方など、科学館は多くの方に利用していただいています。

一方で、子どもの頃に遠足で行ったきり、大人になってからは一度も行ったことがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
科学館は、子ども向けの施設だと思われているのかもしれませんし、あるいは、教科としての理科が苦手で、科学館の展示や実験イベントに興味がわかなかったのかもしれません。

物理学者であり、俳人、随筆家でもある寺田寅彦は、著書『科学と文学』の中で、次のように書いています。

「文学と科学という名称の対立のために、因襲的に二つの世界は截然(せつぜん)と切り分けられて来た。文学者は科学の方法も事実も知らなくても少しもさしさわりはないと考えられ、科学者は文学の世界に片足をも入れるだけの係わりをもたないで済むものと思われて来たようである。
しかし二つの世界はもう少し接近してもよく、むしろ接近させなければならないように自分には思われるのである。」
(『科学と文学』寺田寅彦 青空文庫)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2358_13799.html

寺田寅彦は「文学者」と「科学者」について文学と科学の世界の接近、融合を書いていますが、実は私たちも、似たような区分をしているのではと思います。
例えば、進路を決定する時、いわゆる「文系」「理系」という選択をすることがあります。極端な言い方かもしれませんが、その区分が、その後の自身のアイデンティティとなり、人生におけるさまざまな選択の幅をせばめてしまっている可能性があるのではないか、と思うのです。もし、科学館が「理系の(人のための)施設」ととらえられているのなら、「文系」を選択した人にとっては、自分とは関係のない、遠い存在になってしまっているのかもしれません。
しかし、科学館は科学に興味のある人たちのための施設ではありません。日常生活に影響を及ぼすさまざまな科学の問題を、展示を通して学んだり、科学の専門的知識を持った職員や家族、友人と一緒に、考えたり、学んだりする施設です。大人も子どもも、理系も文系も関係なく、さまざまな人と交流しながら、科学を楽しんでいただきたいと考えています。

では、科学館にあまり親しみがない、科学に興味がない人にも足を運んでいただくには、どうしたらいいでしょうか。
科学館では、繰り返し利用してくださる方たちだけでなく、あまり利用されない方、行きにくいと思われる方たちにも、科学館を利用していただくために、さまざまな「入り口」を用意しています。

みらいーらブックセレクション

「みらいーらブックセレクション」は、科学館をあまり利用しない人にアプローチするイベントの一つです。浜松ロータリークラブ様との共催で、市内の小・中学生を対象に、その人のために科学館職員が「本」を1冊選んでプレゼントします。今回で3回目になります。

本がつなぐもの

みらいーらブックセレクションは、科学のイベントではありません。「本」を通して科学館職員と交流するイベントです。応募から、選書、展示まで実に半年をかけて実施し、科学館で働く職員全員が参加しています。自分に合った本を科学館職員に選んでもらうわくわくした気持ちや本との出合いを楽しみながら、科学館そのものを身近に感じていただけたらと思っています。
今年、参加者にアンケート調査をしたところ、「浜松科学館には1年に何回くらい来館されますか?」(遠足をのぞく)という質問に、1~3回くらいと答えた人が10人いらっしゃいました。

回答数:21

特に、年に1回来館するかどうかと答えた方が、このイベントを通して科学館と接点を持ってくれたことを、とても嬉しく思います。

職員が選書した本と、応募者とのメッセージのやり取りを展示した「みらいーらブックセレクション展」を、サイエンスライブラリーで8月31日まで開催しています。ご来館の際は、ぜひお立ち寄りください。

夜の科学館

また、科学館では大人のためのナイトミュージアム「夜の科学館」を毎月第2金曜日に開催しています。(高校生以上対象)
今年度は、「歴史」「食」「性」「体」「音楽」「旅」など毎月異なるテーマを、科学の視点から楽しむ、さまざまなコンテンツをご用意しています。
夜の科学館

夜の科学館にご来館されたお客様からは、次のようなご感想をいただいています。(6月、7月の夜の科学館アンケートより)

回答数:23人(7月)

・子どもに遠慮しないための時間ではなく、初めて「大人のための時間」だった。
・子連れでないと昼間は来にくいが、夜は展示もゆっくり見られる。
・子どもがいないので、雰囲気が落ち着いているし、大人だけだと思うと妙に楽しい気持ち
になる。

回答数:23人(7月)

・自分の知らない分野を楽しく学べる。知的好奇心をくすぐられる。
・科学館は子ども向けだけでないことを伝えたい。
・人も少なくて落ち着いているし、一歩進んだ内容を知ることができる。
・子どもや孫としか来たことがなかったので自分が楽しめた。
・「子どもには聞かせられない」(6月のテーマ:性)これぞ「大人の科学館」という感じがした。

「知らないことを知る」「知的好奇心が刺激される」
そんな体験ができる、大人のための時間です。日ごろ、科学館に行きにくい、利用しにくいと思っていらっしゃる方も、大人がゆっくりじっくり楽しむことができる夜の科学館に、足を運んでいただけたら嬉しいです。

夜の科学館:神話と科学で語る性の世界

浜松科学館は、すべての年齢の方を対象に、科学のおもしろさや科学をめぐる課題を、身近なものとして伝え、楽しみながらともに学び合う施設です。科学は決して難しいものでも、特別なものでもありません。分野を超え、科学という視点を通して新たな世界を知り、語り合える場になれたらと思います。

浜松科学館では、これからも、さまざまな入り口をご用意して、皆さんのご来館をお待ちしています。