「書く・描く」「画く+測る」「切る+貼る」「刷る」「綴じる」「彩る」の動作に分けて文具を紹介しています。合わせて、それぞれの項目で、浜松周辺で活動されているクリエイターの方々をたずね、使用されている文具や道具について伺いました。
今回は「綴じる」…製本家・村上 亜沙美氏です。
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「実際に作りながら話しましょう」と手を動かし始めた村上さん。和本の下綴じである〈坊主綴じ〉という方法を教えてくれた。まず、本のページにする半紙を二つ折りにする、その折り目をつけるのがヘラだ。「ボーンフォルダとも言って、竹や骨など素材がいくつかあるんです」。すると折り目はゆるやかなカーブになるのだ。綴じる糸は蜜蝋ワックスに当てる。指で抑えシューッと引き抜くようにすると〈蝋引き〉され、糸が強度を増し耐久性が上がる。「蜜蝋ワックスは市販のものも使いますが、少し前に自作もしたんです。使い心地が断然いいですね」。
そうして折った紙をトントンと台で揃えクリップで固定すると、ここでディバイダーの登場。ディバイダーとは、コンパスの両方が針になっているものだ。「自分の感覚がそのまま定規になるのが好きなんです」。これをピタリとくる幅に広げて穴あけの位置を決めると、目打ちでグリグリ。最終兵器は、なんとプラモデル用ドリル!「1mm径の綴じ穴を一気に空けるときに便利!」。
そこに、こよりにした半紙を通し、上下数mmを残して切る。はみ出た部分にはヤマト糊を塗り込み、金づちでバンバンと叩いて潰し、平らにするのだ。「もちろんホチキスで綴じてもいいんだけれど、同じ和紙のほうがしなやかでなじむんですよね」。実はこの金づちは曽祖父から譲り受けたものだそう。〈坊主綴じ〉はとても大事な部分なのに出来上がってしまうと見えなくなって、健気だと笑う村上さん。
いろいろな文具、道具を使っていても、「とくにこだわりはなく、本来の用途と違っていても、使い続けると自分の道具になる」というスタンスは、製本を学んだイギリスには日本ほどモノが揃っていなかったことも影響しているらしい。「思い立ったら身近なもので本を作れたらいいな」という軽やかさだ。
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手回し式のドリルは持っていたが、プラモデル用の電動式の小型のドリルを見つけ製本に使えるだろうと即購入。組み立て式だったため、四苦八苦しながら完成させたそう。
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製本だけでなく本の修復もしている。綴じる糸がカラフルで、裁縫箱のよう。
村上 亜沙美
製本家・デザイナー。ロンドンの大学で本作りを学ぶ。帰国後、東京のデザイ
ン事務所勤務を経て、後にフリーに。2018年、東京から浜松に拠点を移し、2020年に浜松の街角に製本所を開く。
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撮影・取材 下位早織(浜松百撰)
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