〇特別サイエンスショー「時計」
日本で最初の時計 漏刻(ろうこく)
6月10日は「時の記念日」です。671年6月10日に天智天皇が「漏刻」で時を計り、人々に時を知らせたことに由来しています。制定されたのは1920年。東京教育博物館(現在の国立科学博物館)で開催された「時展覧会」が大盛況であったことがきっかけとなり、時の記念日が全国に広まりました。
では、漏刻とはどのようなものなのでしょうか。今回は漏刻についてご紹介します。
漏刻は水時計の1種です。
水を一定の速度で容器に入れ、溜まった水の水位から時刻を読む時計です。
これにはサイフォンの原理が使われています。
サイフォンの原理とは、水で満たされたホースや管で高さの異なる水槽をつなぐと、水が元の水位より高いところを通って、より低いところへ流れていく現象です。これには大気圧が関係しています。赤い矢印で示したように、コップの水面が空気に押され、ホースや管の中を水が移動します。
漏刻は、四段式であったと言われています。
この四段式の漏刻の水槽は、最上段から「夜天池」「日天池」「平壺」「萬分壺」と呼ばれ、受水槽(一番下で時を計る水槽)は「水海」と呼ばれていました。
では、なぜ4つも水槽が必要だったのでしょうか。
水槽が2つの場合、水が移動するのに合わせて、高い方の水槽の水位は低くなり、低い方の水槽の水位は高くなるので、水位の差が少なくなります。水位の差が少なくなると、水の流れる速さも遅くなり、さらに水面が同じ高さになると流れが止まります。
これだと、時間を正確に計ることはできません。そこで段を増やして、水を安定させたのです。
当時の人々は、このサイフォンの原理を理解し、漏刻を使っていたようです。
〇特別投影「星、ときどき時」
時間という概念は、私たち人間が考えたものです。かつて人々は空に昇る天体の動きを観察し、規則性を見出しました。そして農耕や儀式、社会活動を行うための普遍的なものさしとして整えられ、時計やカレンダーという形で生活の中に溶け込んでいきました。
星を見ることは時を知る第一歩と言えます。今回の投映では、巨大な星空シミュレーターであるプラネタリウムで時を知るひとときをお楽しみいただきました。
夏至が近いこともあり、冒頭、夏至の日の出の光が特定の位置に入射する構造をもった、ストーンヘンジの紹介、太陽の同時刻での1年の軌跡『アナレンマ』の実演を行いました。
おとめ座の方向には、銀河が集中している領域『銀河団』があり、研究が進められています。望遠鏡で遠い宇宙を観測するということは、過去を見ていることになります。過去を見ることで、宇宙の始まりを知ることができるのです。現在、宇宙の年齢は138億歳と考えられています。これを私たちの時間スケールに置き換えた『宇宙カレンダー』と呼ばれるユニークな教材があります。宇宙誕生から現在までの出来事を1年で表したものです。宇宙カレンダーによると、1月1日に宇宙が誕生し、人類が生まれたのは12月31日23時50分台と計算されます。宇宙が歩んできた時間の中では人類が存在する時間はほんのわずかであることが強く印象に残ります。
生き物にも時を刻む仕組みが組み込まれています。それは『代謝』や『心拍』です。本川達夫氏著『ゾウの時間 ネズミの時間』によると「哺乳類は約20億回の心拍で寿命をむかえる計算となる」という旨の記述があります。おおよそ、ヒトの心拍(1分間に心臓が弛緩する回数)は約60回、ネズミは約200回、ゾウは約30回、クジラは約10回となっています。これを見るとネズミは忙しく短命と思えてしまいますが、一生を生き切った感覚はどの生き物も同じなのかもしれません。
※ヒトは食べ物や医療の発達で寿命が延びています。心拍数60のヒトが20億回心拍するには63年ほどかかります。
さて、天気予報で「晴れ、時々雨」という表現があります。これは、雨が断続的に降り、その降っている時間が予報期間の1/2未満の場合を指します。実は今回のプログラム「星、ときどき時」も、上記の表現に合わせて、投映時間30分の中で12~13分ほど断続的に“時”に関するトピックを紹介するという構成で行いました。
そんな、さまざまな角度から見た“時“を知るプログラムでした。
〇展示解説「振り子の動き」
まずは、次の写真をご覧ください。
これは、科学館内の力ゾーンにある振り子を扱った展示物です。ヘビのように見えたと思えば、2列に分かれたりと、まるで生きているかのように規則的な動きをします。そして、最後にはすべての振り子が再びまっすぐにそろってしまいます。
どうしてこのような動きをするのでしょうか?
わかりやすくするために、ミニバージョンを作ってみました。ひもにスーパーボールを引っかけてあります。
同時に振り子を揺らすと、手作りした振り子も同じような動きをします。
よく見ると、それぞれのひもの長さが違うことがわかります。一番左が一番長く、右に行くにつれて短くなっています。振り子はひもの長さが変わることで、行って帰ってくるまでの往復時間(周期)が変わってきます。
少し実験をしてみましょう。ここに、2つの長さの違う振り子があります。左は長い振り子、右は短い振り子です。
どちらの方が、より早く往復するでしょう?
実験をしてみると…短い振り子の方が早く往復することがわかります。
ついでに、いろんな実験もしてみましょう。
今度は、ひもの長さを同じにしました。
振れる幅を変えると、往復する時間は変わるでしょうか?
実験してみると…ほとんど変わらないことがわかります。
次は、ボールの重さを変えてみましょう。
左の黄色いボールは約75g、右の赤いボールは約10gです。ボールの大きさはほぼ同じです。
実験をしてみると…ほとんど変わらないことがわかります。
振り子が1往復する時間(周期)は、振れ幅やボールの重さには、ほとんど影響を受けないようです。これを「振り子の等時性」といいます。これを最初に発見したのがガリレオ・ガリレイだといわれています。ガリレオは教会の天井に吊ってあるランプが揺れているのを見て、ランプが大きく揺れても小さく揺れても往復するのにかかる時間は変わらないことに気づきました。この振り子の等時性を利用したのが、振り子時計です。振り子の長さを決めておけば、一定のリズムを刻んでくれるため、時計として応用されるようになりました。振り子の性質が「時」を刻む役割を果たしたというわけですね。
では、ひもの長さは変えずに、ボールの大きさを変えると、どうなるでしょうか?
往復するのにかかる時間は変わるでしょうか、変わらないでしょうか。
変化がわかりやすいように、手作りした5つの振り子で試してみます。5つの振り子の内、1つの振り子のボールを取り替え、大きくします。
ひもの長さは変わっていません。ボールは重くなりました。どうなるでしょう?
きれいな規則正しい動きをすれば、変わらなかったということです。
実験してみると… うまく動きがそろっていないことがわかります。
どうやらボールを大きくすると、往復する時間が変わってしまうようです。
実はこの場合、正確には、振り子の周期はひもの長さではなく、上部のひもを固定した位置からボールの中心までの長さによって決まります。ボールを大きくすると、ボールの中心までの距離が長くなるため、往復するまでの時間が延びたというわけです。
様々な振り子の性質がわかったところで、展示物の振り子の種明かしをしましょう。
こちらもそれぞれの振り子の長さが違っています。
一番左の振り子が一番長いため、周期は一番長く、右に行くにつれて次第に周期が短くなっていきます。
実は、一番左の振り子は、45秒間に61回振れるように調整されています。そして次の振り子は45秒間に62回、その次が45秒間に63回と、45秒間に振れる回数を1ずつ増やしています。そのため、45秒後には全ての振り子がそろうようになっているのです。
同じように手作りした5つの振り子も、一番左を60秒間に45回、その次を60秒間に46回と、60秒間に振れる回数を1ずつ増えるように調整しています。
一定のリズムを刻む振り子の性質をうまく利用すると、こんなアートのようなものも作れるなんておもしろいですね。
〇でんけんラボ「ニホンウナギの耳石」
ニホンウナギ(以下、ウナギ)は日本から2000 km離れた外洋で産卵し、孵化した稚魚は海流を漂いながら日本にたどり着きます。そして川を上り、淡水の環境で大きく成長します。
とご紹介したものの、ウナギの生態は謎だらけ。産卵場所ですら長年の謎でしたが、2008年に初めて採卵され、場所が特定されました。その産卵場所の発見の鍵となったのが「耳石」です。耳石とは頭部に埋め込まれている平衡感覚を司る骨です。
耳石には、扁平石、礫石、星状石の3種類があり、産卵場所発見の鍵になったのは扁平石です。図鑑によると扁平石の大きさはわずか2~3 mm。浜名湖体験学習施設ウォットさんから提供いただいたウナギの頭部を解剖し、苦労しつつも扁平石を採取しました。
ニホンウナギの耳石(白色矢印)
耳石(扁平石)を電子顕微鏡で見てみると…
耳石とはよく言ったもので、見た目は完全に「石」ですね!
さらに拡大すると…
階段のような規則的な層状になっていることが分かります。
このように耳石には微細な層があり、1日に1層ずつ増える性質があります。産卵場所特定の調査では、外洋で採集されたウナギ稚魚の耳石が調べられました。船上で顕微鏡を使ってミクロな層を数える地道な作業です。孵化後何日目かを確かめながら産卵場所の候補地が狭められ、発見に繋がりました。
耳石を構成する元素として、カルシウムとストロンチウムがあります。両者には化学的に似た性質があり、耳石を構成する際の役割も同じですが、海洋で生活した時と、淡水で生活した時とで耳石に含まれる割合が変化することが知られています。つまり、耳石の各層のカルシウム・ストロンチウムの割合を調べることで、どのタイミングで海洋・淡水の生活が切り替わったかが推測され、その個体の生活史を知ることができるのです。
樹木の年輪のように、しばしば生き物たちは時を刻みます。
今回はニホンウナギの小さな耳石を拡大することで、時間の流れを感じることができました。
この他にも、ミニワークショップ「日時計を作ろう」やミュージアムショップでの関連グッズの販売を実施しました。
開催日:2024年6月14日(金) 毎月第2金曜日
参考資料
『ウナギの科学』塚本勝巳(朝倉書店, 2019).
Tsukamoto, K. et al. Oceanic spawning ecology of freshwater eels in the western North Pacific. Nat. Commun. 2011 21 2, 1–9 (2011).
Leander, N. J., Tzeng, W. N., Yeh, N. T., Shen, K. N. & Han, Y. S. Effects of metamorphosis timing and the larval growth rate on the latitudinal distribution of sympatric freshwater eels, anguilla japonica and A. marmorata, in the western North Pacific. Zool. Stud. 52, 1–15 (2013).