夜の科学館:科学と一緒に出かけよう

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、プラネタリウムやサイエンスショーなど、昼間の科学館とは趣の違う大人の方向けのプログラムを実施しています。今年度の夜の科学館では「大人がワクワクする科学館」を目指して、毎月異なるテーマを設定し、さまざまなコンテンツをご用意しました。本ブログでは、科学館ならではの切り口で毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。

1月のテーマ『旅』。
皆さんの「旅の楽しみ」は何ですか?
食事、御朱印集め、聖地巡り、、、旅には人それぞれ目的、スタイルがあります。
今月は、旅がさらに充実するような科学の視点をお届けするプログラムを実施しました。

〇海外の星空(イタリア)

2023年3月までの夜の科学館では「スターフライト」という毎月異なる国々の星空と観光地などを紹介するプログラムを行い、大人気となりました。
終了後も「再度スターフライトをやってほしい」というご意見をいただいておりましたので、リクエストにお応えして、今回はスターフライトのイタリア編を投映しました。
スターフライトの基本構成は、飛行機で日本を旅立ち、現地の観光地やグルメなどをご紹介した後、現地で見ることができる星空をご案内して、また飛行機で浜松に戻ってくるというものです。
プラネタリウムはスクリーンがドーム状のため、全体に風景を投映すると映像に包まれて、まるでその場にいるような感覚になります。

今回訪れたイタリアの都市は、ヴェネツィア、フィレンツェ、ピサ、ローマ(バチカン市国含む)です。
まずは、ヴェネツィアに行ってみましょう。



ここは、サン・マルコ広場です。ナポレオンが世界で最も美しい広場だと称えたといわれています。

サン・マルコ寺院の隣に建っているのは「鐘楼」で高さが100m近くあります。

続いてフィレンツェです。
シニョリーア広場にあるヴェッキオ宮殿は現在、市役所として使われています。
入口にはミケランジェロのダビデ像のレプリカが立っています。

フィレンツェから電車で1時間ほど行くと、ピサに到着します。
ピサの斜塔が有名です。

ここで、ガリレオ・ガリレイが落体の法則の実験をしたという逸話がありますが、実話ではないといわれています。

最後にローマです。
有名な円形闘技場であるコロッセオには、約5万人が収容できたといわれています。
ローマにはたくさんの噴水があり、有名なトレビの泉には1年間で1億円以上のコインが投げ込まれるそうです。

そして、ローマ市内にある世界最小の国「バチカン市国」にやってきました。
これは、ローマ・カトリック教会の総本山サン・ピエトロ大聖堂です。

すぐ近くのシスティーナ礼拝堂には、ミケランジェロの天井画などがあります。
バチカンは天文学にも力を入れており、現在では光害で星が見えなくなったローマから遠く離れたアメリカのアリゾナ州に天体望遠鏡を有して、観測を行っています。
イタリアの天文学者といえば、ガリレオ・ガリレイが有名ですが、彼は自分で作った望遠鏡を天体に向けました。望遠鏡自体はオランダの眼鏡職人が発明したといわれていますが、ガリレオがすごいのは、天体望遠鏡として使用して、さまざまなものを発見したことです。
その大発見の1つが、木星の周りを回っている衛星を見つけたことです。4つまとめてガリレオ衛星といいます。イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストという名前がつけられています。

木星の周りを回っている衛星を見つけたことで、ガリレオは地球が太陽の周りを回っているという「地動説」を確信したのではないかといわれています。
星の見え方は観測地の緯度で変わります。ローマはおよそ北緯41.9度で、浜松はおよそ北緯34.7度です。そのため、ローマでは浜松よりも南の空の星は約7度低く見え、北の空の星は約7度高く見えますが、見ることができる星座はほとんど同じです。
今回は街の明かりにお休みしてもらい、ローマで見ることができる冬の星座を中心に、ギリシャ神話とともに、ご紹介しました。
海外旅行に行かれましたら、昼間の観光とともに夜空も眺めていただき、世界中のどこにいても空はつながっている「One Sky」であることを感じていただければと思います。
世界のどこかで、誰かがみなさんと同じ星をみているかもしれません。そう考えると、ちょっと素敵だと思いませんか?

〇展示ツアー「力」

旅をするとき、飛行機や船、鉄道、車など、乗り物に乗って目的地へ行く方が多いのではないでしょうか。中でも車やバイクは、好きなペースで自分の行きたい場所に行ける便利な乗り物です。浜松は、スズキやホンダ、ヤマハ発動機などが工場を構える、自動車産業(輸送機器産業)が盛んな街です。

やらまいかストリートに並ぶ浜松の偉人(手前から鈴木道雄、本田宗一郎、川上源一)

温暖な気候を活かした綿花栽培が盛んだった浜松では、布を織るための織機作りも行われていました。やがて自動織機の動力を利用した自動車開発が進んだことにより、自動車産業が発展していきます。

自動織機や自動車を動かすために欠かせないパーツが、エンジンです。燃料を燃やした熱でピストンを動かし、回転する力を得ています。さまざまな歯車(ギア)が組み合わさった機構を使うことで、エンジンによって生み出された力をタイヤに伝えたり、線路の無い場所を自在に操縦できるようになります。

常設展示「メカニカルウォール」では、機構によって力が伝わる様子を体験することができます。写真のピストン機構は、上下の動きと回転する動きを連動させるもので、エンジンに使用されています。エンジン内部では、ガソリンの燃焼によって膨張した空気がピストンを押し出し、空気が冷えると元に戻るので、軸が回転するのです。
機構は、自動車の他にも時計や楽器など、身の回りのさまざまなものに使われています。

  • 常設展示「メカニカルウォール」
  • ピストン機構
    ピストン機構

また、近年普及している電気自動車の動力はモーターです。モーターは、コイルに電気を流すことで磁界が生じる「電磁誘導」という原理を利用して回転しています。
常設展示「電磁誘導テーブル」には、たくさんの磁石がついており、スイッチを押すと磁石が高速で回転します。コイルをテーブルに置くとLEDが点灯し、磁界の変化によって電気が流れていることが分かります。電磁誘導をうまく利用することで、モーターを動かしたり、発電したりすることができるのです。

  • 常設展示「電磁誘導テーブル」
  • コイル付きLED

浜松の産業の生い立ちや電磁誘導については、浜松科学館展示ストーリーブック(こちら)や過去のブログ(金属が磁石になる瞬間)でも紹介しています。

乗り物の動くしくみを知ると、旅の移動も楽しくなります。旅をするときはぜひ、乗り物にも注目してみてください。

〇サイエンスショー「鉄道」

電車のかなめ、パンタグラフ。

みなさんは電車の天井についているひし形もしくは、くの字型の装置を見たことがあるでしょうか。これは、パンタグラフと呼ばれる集電装置です。
電車とは、電気でモーターを回転させることによって、自ら走行することができる旅客車や貨物車のことです。この電力を架線からとる(通電させる)装置がパンタグラフです。電気を使わず、ディーゼルエンジンで動く列車は、ディーゼル機関車と呼ばれています。
電車は変電所から送られる電気をパンタグラフからとり、車輪を通して線路へ電気が流れていきます。変電所を通して、1つの大きな回路になっています。

パンタグラフのイメージ図
パンタグラフのイメージ図

線路に触れたら危ないのでは、と思われる方がいるかもしれませんね。結論から言うと、大丈夫です。電流は高い電位から低い電位(ここでは、架線から車輪を経由して、線路へ)に向かって流れます。電位差があると電気が流れるのですが、線路に流れている電流は、モーターなどの抵抗になるものを通った後の電流なので電圧が降下しています(0v)。また、線路は地面に設置されているので、地面との電位差もありません。ですので、線路に触れても、身体には電気が流れないので感電しません。

さて、このパンタグラフですが、なぜ写真のようなひし形をしているのでしょうか。

電車は長距離を移動します。架線の高さは、例えばトンネルの中では低くなったり、出ると高くなったりと高さがバラバラです。常に電車に安定して電気を供給するため、伸び縮みをして架線の高さに合わせています。

  • パンタグラフの伸縮イメージ(縮)
  • パンタグラフの伸縮イメージ(伸)

最近ではひし形ではなく、くの字型のパンタグラフが増えてきています。


これらは、「シングルアームパンタグラフ」と呼ばれています。
部品が少ないことによる製造コストの削減はもちろんですが、空気抵抗が少なくなるため騒音を抑えることができます。常に進化しているのですね。

皆さんも電車に乗る際には、天井のパンタグラフにも注目してみてください。

〇超拡大!天浜線の敷石

読者の皆さんは「天竜浜名湖鉄道(通称:天浜線)」をご存知でしょうか?
天浜線は、浜松市を東西を横断しながら遠州地域を走る鉄道です。
今月の夜の科学館のテーマは「旅」ということで「天浜線の敷石」を電子顕微鏡で観察してみたいと思います。

2020年に天浜線の敷設80周年を記念して販売された「天浜線・線路の石」。

持ってみると茶色で、丸形で手になじみます。
この独特な「色」と「形」はどのように作られたのでしょうか?
一部を削って、電子顕微鏡で観察すると…

表面の茶色の部分は、小さな凹凸が積み重なってできていました。
これは酸化鉄です。
鉄道のレールの主な材料は鉄です。長い年月を経ることでレールの表面が酸化して、酸化鉄(鉄さび)になります。車輪がレールの上を通る際に、酸化鉄が周囲に飛散し、敷石に付着したのです。
茶色は酸化鉄に由来した色だったのですね。

石の内部を拡大すると、たくさんの結晶が集まっていました。

この岩石は花崗岩の一種です。マグマが地下深くで冷えて固まる際に生まれる岩石で、マグマの含有成分が大きく結晶化しています。

より細かく砕いた岩石を拡大すると、ある結晶片は、薄い板が何枚も重なったミルフィーユ状の構造をしていました。

これは「白雲母」で、花崗岩に含まれることがある鉱物の一種です。

近年の鉄道の敷石は、採石場で採掘された角ばった岩石が用いられます。
一方で、昔の敷石には、河川敷の丸石が用いられることがありました。最初は角ばっていた岩石も、川の上流部から流れるうちに角がとれ、丸形になります。
もしかしたら、天浜線の敷石は近くを流れる天竜川から得られたものかもしれません。そう仮定すると、この石は花崗岩が多産する中央アルプスから運ばれたものと考えられます。

地下深くで生まれ、川に流されて形成された天浜線の敷石。
次に天竜浜名湖鉄道に乗る機会がありましたら、車両や景色だけでなく、敷石にも注目してみてください。

科学の視点で訪れたさまざまな場所。みなさん、旅行気分は味わえたでしょうか?
このほかにも、オリジナル旅ステッカーを作るミニワークショップや、海外雑貨の販売を行いました。

  • ミニワークショップ「オリジナルステッカー作り」
  • でんけんラボ 「超拡大!天浜線の敷石」
  • 展示ツアー「力」
  • サイエンスショー「鉄道」

次回の夜の科学館は、2024年2月9日(金)テーマ『テクノロジー:科学技術と共に生きる』。
ご来館、お待ちしております。