夜の科学館:今に繋がるムカシを掘り出そう

浜松科学館では月に一度(毎週第2金曜日)、高校生以上を対象に「夜の科学館」を開催しています。開館時間を延長し、常設展をご覧いただけることに加え、プラネタリウムやサイエンスショーなど、昼間の科学館とは趣の違う大人の方向けのプログラムを実施しています。今年度の夜の科学館では「大人がワクワクする科学館」を目指して、毎月異なるテーマを設定し、さまざまなコンテンツをご用意しました。本ブログでは、科学館ならではの切り口で毎月のテーマと科学の関わりを紹介します。

9月のテーマ『いにしえ』

古代の人々の遺物や、長い年月をかけて出来た化石や鉱物は、今を生きる私たちが過去の様子を知る手がかりとなります。今月は、科学的な視点から大昔の人々や地球の様子を探るプログラムを実施しました。

〇展示ツアー「自然」

常設展示室1階の自然ゾーンに入ってすぐ目に入る「浜松のすがた」。触ってみると、山間部はボコボコと高い山が連なっており、市街地周辺はなだらかな土地であることが分かります。海と山に囲まれた浜松には、徳川家康が浜松城を築城するはるか昔から、人が暮らしていたことが分かっています。

浜北区の根堅遺跡から約1万8千年前のヒトの化石が発見されており、本州最古のものであることが分かっています。同じ年代の地層からは、トラやオオカミ、ナウマンゾウなどの化石も見つかっており、現在とは異なる環境であったことがうかがえます。また、中区にある蜆塚公園は大量のシジミの貝殻や、竪穴式住居跡など、縄文時代に人々がくらしていた痕跡が見つかっています。シジミやカキ等は、現在も浜松で採れる海産物で、長い年月の間に地形や気候の変化があったことがわかります。

では、今の浜松はどのような環境なのでしょうか。「環境ウォール」では、浜松市内でみられる13か所の環境とそこに棲む生き物を見ることができます。異なる環境には異なる生き物が棲んでいることがわかります。たくさんの環境があるということは、それだけたくさん生き物が棲んでいるといえます。

アクティブリサーチデスクを利用すると、さらに詳しく生き物を調べることが出来ます。拡大して観察したり、図鑑を使って調べることで、今まで知らなかった生き物の一面を知ることができます。皆さんもご来館の際は是非、自然ゾーンで浜松の環境や生き物に触れてみてください。

〇五感で楽しむ鉱物の世界

今回は鉱物のお話です。
まずは、鉱物と岩石の違いをお話しましょう。
鉱物とは「特定の化学組成を持った結晶」のことです。
例えば、岩塩は鉱物です。岩塩はナトリウム(Na)と塩素(Cl)の分子が規則正しく並んでおり、化学式で表すことが出来ます。

みなさんが大好き?な宝石ですが、宝石も鉱物の一種です。鉱物の中でも、
1,美しい事
2,耐久性があること
3,希少性がある事
これら3種を満たす鉱物を宝石と呼んでいます。
一方、岩石は様々な鉱物の集合体です。色々な鉱物が不規則に少しずつ混ざっているので、化学式で表すことができません。石英や長石、黒雲母などを含んだ花崗岩がその例です。

今回は少し変わった鉱物を紹介します。
「テレビ石」
写真をご覧ください。

鉱物なのにも関わらず、絵や文字が透けて見えることから、テレビ石と呼ばれています。キーホルダーとして販売されていることも多いので、見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
正式名称は、ウレキサイトといいます。テレビのように透けて見えるのは、構成している結晶が繊維状かつ一定方向に配列され、綿密な束になっていること(グラスファイバー効果)によります。

結晶のイメージ
「火打石」
こちらも時代劇などで見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。カチカチといい音を立てて、火花が飛びます。しかし実際には、火打石という石はありません。
メカニズムですが、火打石と鋼鉄で出来た火打金を打ちつけることにより、鋼鉄の表面が削り取られ、摩擦によって生じた熱(500~1200℃)をもつ火花が飛ぶことで火がつきます。
火打石として適しているのは、鉱物の硬さを図るモース硬度が7以上のものが適しています。石英、チャート、めのう、黒曜石などがよく利用されています。
めのう(モース硬度7)

「コランダム」
あまり聞き覚えがない鉱物ですが、結晶に組み込まれる不純物イオンによって色が付きます。赤くなったものをルビー、青色等になったものをサファイアと呼んでいます。
これに紫外線(ブラックライト)を当てると、さらに美しく赤く蛍光します。
原理は、照射された紫外線によって、結晶内の電子が活発に動き、それによって放出された電磁波が光って見えるためです。

身の回りにある鉱物にもたくさんの科学が隠されています。

〇まるで宝石!アンモナイト

アンモナイトの化石を見たことはありますか?下がアンモナイトの化石。発掘された場所の地質学的な特徴にもよりますが、虹色に輝く外側や半透明な石状の内側は、宝石のように美しいです。

  • 図1. アンモナイトの化石(左:外側、右:内側)

なぜ宝石のように美しく見えるのでしょうか?
電子顕微鏡で、微細な構造を観察してみましょう。

虹色に輝く殻の外側の表面を拡大すると、薄い層が幾重にも重なっていました。

図2. アンモナイトの化石(外側表面)

外から差し込んだ光はそれぞれの層で反射・屈折し、跳ね返った光は干渉しあって特定の光の波長を強めます。光の反射・屈折は通過する層の厚さによって変化します。そのため場所によって異なる波長が強められ、全体的に眺めるとさまざまな色が一度に目に入って虹色に見えるのです。
このような仕組みで創り出された光は構造色と呼ばれ、貝や真珠、タマムシなど現代の生き物たちからも観察することができます。

こちらは殻の内側に見られた半透明な石に見られた小さな隙間の部分の電子顕微鏡写真です。

図3. アンモナイトの化石(内側表面)

隙間の周囲から中央に向かって、結晶構造が迫っていることが分かります。この結晶の正体は炭酸カルシウムです。アンモナイトの殻自体が炭酸カルシウムでできており、周囲に石灰岩など炭酸カルシウム質の岩石がある場合、周囲から溶け出した炭酸カルシウムがアンモナイトの殻を核として結晶化することがあるのです。
観察したアンモナイトは、マダガスカル共和国の約1億年前の地層から掘り出されたものです。大昔の生き物が炭酸カルシウムで結晶化、つまり鉱物になっていました。化石のことを「石に化ける」とはよく言ったものですね。
博物館で展示されたり、ミュージアムショップで販売されたりするアンモナイト。構造色や鉱物化の美しさにも注目してみてください。

〇 キトラ古墳壁画 天文図と中国星座の世界

プラネタリウムでは西洋の星座を紹介することが多いですが、当然のことながら星を眺めていたのは西洋の人たちだけではありません。日本でも星を眺めていました。
ただし、科学的な意味での天文学は古代の日本には存在しなかったと言われています。日本で最も古い史書の1つである「日本書紀」によると、暦や占いに関連した最初の天文学は中国からもたらされたとされています。古代中国は独自の天文学を発展させており、星を観察して星の地図である「天文図」を作っています。

1983年に奈良県明日香村で発見されたキトラ古墳内の石室には、色鮮やかな壁画が描かれています。石室の天井に描かれている天文図を含むキトラ古墳壁画は、2019年7月に国宝に指定されました。
その天文図は、本格的な中国式星図としては、現存する世界最古のもので、2020年3月には日本天文遺産にも認定されています。
そして国立天文台などの調査によって、この天文図がかなり正確なものであることがわかってきました。

今回は、文化庁と奈良文化財研究所が企画・制作された「キトラ古墳壁画 天文図と中国星座の世界」というプラネタリウム番組を特別に投映させていただきました。
本作品は、キトラ古墳の天文図を通して、古代中国の天文学や天に関する思想、また天文図に描かれた中国星座と西洋星座の比較などを学べる番組です。

文化庁が石室内調査を行った結果、壁画は、そのままにしておいてはやがて崩れてしまう極端なもろさであることがわかったため、この壁画を守るため取り外しが行われ、修理・強化処理後、保存管理されています。古墳そのものは石室と同じ石材でふさいで埋め戻されました。
奈良県明日香村にある「キトラ古墳壁画体験館四神の館」1階の「キトラ古墳壁画保存管理施設」では、期間限定・事前登録制で壁画実物が公開されています。
ぜひ下記ホームページをチェックしていただき、公開時に訪問して古代のロマンに触れていただければと思います。

文化庁 キトラ古墳壁画保存管理施設
https://www.nabunken.go.jp/shijin/index.html

科学の視点から見た「いにしえ」はいかがでしたでしょうか?
このほかにも、ミニワークショップでの化石探し体験や、ミュージアムショップでの化石・鉱物の販売を行いました。
次回の夜の科学館は、10月13日(金)
テーマは『音楽:音を楽しむ』
ご来館、お待ちしております。
イベント名:夜の科学館
開催日:2023年9月8日(金)毎月第2金曜日
参考資料:
大人のフィールド図鑑
自分で探せる美しい石図鑑&採集ガイド 円城寺守著 実業之日本社 2018年
鉱物・宝石の不思議 近山晶著 ナツメ社 2006年